せるだろうと思って気の毒に眺めていたが、その心配はすっかり無駄に終った。何故《なぜ》なら金魚は焔の下の水中で、嬉々として元気に泳ぎつづけていたからである。
焔が水中の金魚を焼かないとすると、焔は何を焼くだろうかと、急に心配になった。すると紅蓮の焔はまるで生物のように八十助の存在を認めて、そのメラメラといきり立つ火頭を彼の方に向け直すと、猛然と激しい熱風を正面から吹きつけた。
「うわーッ」
八十助は駭いて後方へ飛びのいた。焔は執拗に追いかけてきた。彼は夢中で駈けだした。ドンドン駈けて駈けてつづけた[#「駈けて駈けてつづけた」はママ]。
あまり一生懸命に駈けたので、気がついたときには、全く思いがけない場所に仆《たお》れている自分に気がついた。振りかえってみたが、もう焔は見えない。どこにも火が見えない。八十助の周囲には涯しない永遠の闇が続いていた。火焔の脅迫は去ったが、それに代り合って闇黒の恐怖がヒシヒシと迫ってきた。全く何も見えない無間地獄の恐怖が……。
彼は首を動かしてみた。頭の下に固いものが触れた。彼は地獄の底に、仰向きになって寝ているのだということが判った。なんだか頭の芯がピ
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