ちのぼって、まるで昔の絵に描いた火の玉のようになった。八十助はどうしようもない不安の念に駆られて、アレヨアレヨと見つめているばかりだった。
 すると急に、火焔が上に動きだした。金魚鉢の中で、火焔だけが競《せ》り上りだしたのであった。見る見るうちに火焔の底が現れた。火焔はズンズン騰《のぼ》ってゆく。やがて金魚鉢の頂上のところ一面に焔々と火は燃え上った。焔の下は何だろうとよく見ると、そこには清澄な水が湛《たた》えられてあった。
 水は硝子のせいでもあろうか、淡《うす》い青色に染まっていて、ときどきチチチと歪《ゆが》んでみえた。その歪みの間から、何か赤いものがチロチロと覗いて見えた。
(何だろう、あれは!)
 チロチロと揺めく赤いものは、だんだんと沢山に殖《ふ》えていった。よくよく見ていると、それは小さい金魚の群であることが判った。
(金魚が泳いでいる!)
 可愛い金魚が泳いでいるのだ、しかし何という奇怪なことだろう。金魚のすぐ頭の上は水面だったが、そこには呪わしい紅蓮《ぐれん》の焔がメラメラと燃え上っているのだった。哀れなる金魚たちは、その焔に忽《たちま》ち焼かれて、白い腹を水面に浮き上ら
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