ていたことを祝福して、一つ乾杯しようじゃないか」
 八十助は鼠谷がおかしいのだと思ったので、いい加減にその相手から遁《のが》れるために、乾杯をすすめた。
「ナニ祝杯をあげて呉れるというのかい。そいつは嬉しい。では――」
 カチンと洋盃《カップ》を触れあわせると、二人は別々の盃《さかずき》からグッと飲み乾した。
「やあ、これで俺の勝利だ。今度は俺が君のために乾杯することにしよう」
 といってバーテンダーに合図をした。
「君の勝利だって、何を云っているんだ――」
 八十助は相手の言葉を聞き咎めた。
「それはこっちの話さ。いまに判るがネ。つまり君は俺がこの世の者でないという俺の説を信じてくれる見込がついたからさ。……さあ酒が来た。君のために乾杯だ」
「なんだって? 君は……」
 八十助はそこまで云ったときに、俄《にわ》かに酔いが発したのを覚えた。彼の前にある世界が、酒場が、そして鼠谷が、一緒になってスーッと遠くへ退いてゆくように思われた。
(呀ッ。これはしっかりしなくては……)
 と卓子《テーブル》の上に手を突張ろうとしたが、どうしたのかこのときに彼の上体は意志に反してドタンと卓子の上に崩れ
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