るバアテンダーはまるで蝋人形のような陰影をもっていた。
「いらっしゃいまし。……貴方《あなた》のお席はチャンとあれに作ってございます」
バアテンダーはゼンマイの動き出した人形のように白いガウンの腕だけを静かにあげて、隅の席を指《さ》した。そこには白バラの活《い》けてある花瓶が載っていた。観察すればするほど奇妙な酒場だった。八十助はいつか西洋の妖怪図絵の中に、こんな感じのする家が出ていたのを思い出した。
鼠谷はカクテルを註文すると、すぐに話の続きを始めた。
「……いいかネ、甲野君。俺は一旦死んで、たしかにあの花山火葬場の炉の中に入れられたんだ。それを見たという証人もいくらでもあるよ。その人達にとっては、俺の生きていることを信ずることよりも、死んだことの方を信ずる方が容易だろうと思う。本当に俺は死んだのだ。一旦死んだ世界へ行ってきて、それから再びこの世に現れたのだ。思いちがいをしてはいけないよ。君には俺がよく見えるだろうけれど、俺はとくの昔に、この世の人ではないのだ」
「莫迦莫迦しい。もうそんなくだらん話は止《よ》し給え。誰が君を死人の国から来た男だと思うだろうか。それよりも、君の生き
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