が何か一役やっているに違いない」
「でもあいつは其後死んじゃったという話じゃないか……」
二人の話をここまで聴いていた八十助は、そこから先をもう聞くに堪えなかった。話題に上っているカマキリのような男というのは、あの鼠谷仙四郎のことに相違ない。この二人も彼奴《あいつ》が死んじまったといっているではないか。
八十助は何がしかの銀貨を卓子《テーブル》の上に置くと、酒場から飛び出したのだった。
幽霊男
酒場を出てみると、そこは賑《にぎや》かな夜店街の切れ目だった。そこから先は夜店がなくなって、急に日が暮れた様な寂しい通りだった。彼は当てもなく、足を早めた。
そのときだった。丁度そのとき、彼の背後から声を懸けたものがあった。
「モシモシ、甲野君……」
突然わが名を呼ばれて八十助はギョッとその場に立ち竦《すく》んだ。背後を見てはならない――誰かが警告しているように感じた。といって呼ばれて振り向かずに居られようか。
「モシモシ、甲野君じゃないか……」
「あ――」
彼は思い切って、満身の力を込めて、背後を振りかえった。
「呀《あ》ッ」
そこには背のヒョロ高い、眼の下に黒い隈
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