とを何と言って話をすれば一等心配をかけないですむかしらんと、いろいろと考えてみた。
だが、それは、なかなかむずかしいことであった。親一人子一人の仲で、父親は千二のことを目に入れても痛くないほど、かわいがっているのである。その千二が、警視庁の留置場にいることを知ったら、父親はどんなに悲しむか知れない。
新田先生の足は、だんだん重くなった。
ふと気がついて見ると、このさびしい田舎道を、湖の方に向かって、大勢の人々が行きつかえりつしているのであった。
「はて、ばかににぎやかだなあ。お祭でもあるのかしらん」
そう思いながら歩いていると、行きかう二人の話が、ふと先生の耳にはいった。
「どうも、えらいこったね。まだ千二のことを知らんのか」
「知るもんか。千蔵はあのとおりの体だ。そこへ倅の千二のことを聞かせちゃ、かわいそうだよ。悪くすりゃあ、それを聞いたとたんに、ううんといっちまうかもしれないよ」
「そうかもしれないね。あの怪我で、血をたくさん失って、からだがひどく弱っとるちゅうことだ。言わないのがええじゃろう」
新田先生は、胸をつかれたように、はっと思った。
行く人々の話によると、千二の父親は大怪我をしたらしい。一体、どうして大怪我などをしたものであろうか。
怪我をしたればこそ千蔵は、千二のことも知らないし、東京へ駈けつけもしないでいるのだ。
千二は、しきりに父親のことを心配していたが、やはり、それはとりこし苦労ではなく、ほんとのことだった。
「もしもし、千蔵さんがどうかしたのですか」
新田先生は、一人の青年団服の男に声をかけた。その男は、けげんな顔をして、新田先生の顔をながめていたが、
「大怪我をしたんですよ。今うちで、うんうんうなっていますよ」
「ああ、そうですか。どうしてまた、そんな大怪我をしたんですか」
青年団服の男は、目をぱちくりして、
「へえ、あなたは何も知らないんですね。第一、なぜこのような人出がしているんだか、知らないのでしょう」
「ええ、何にも知りません。しかし、私は千蔵さんのところへ用があって、これから、いく者なのです」
「ははあ、なるほど。では、親類の方ですね」と、かの青年は、ひとり合点をして、「それなら話してあげましよう。千蔵さんは、ゆうべ火柱《ひばしら》にひっかけられて、大怪我をしたのですよ」
「えっ、火柱ですか? 火柱というと……
前へ
次へ
全318ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング