」
「火柱というと、火の柱です」
と、青年団服の男は、わかったような、わからないようなことをいった。
「ああ、火柱がどこに立ったのですか」
「天狗岩という岩が、湖の上に出ているのです。すぐその側から、びっくりするような大きな火柱が立って、そばにいた千蔵さんがやられてしまったんですよ」
新田先生は、道行く人の話を聞いてびっくりした。千二の父親が、ゆうべ火柱でやられたというのだ。
「はてな、天狗岩というと、聞いたような名だぞ」
先生は、千蔵の家へ急ぎながら、道々考えた。
天狗岩とは?
(そうだ。千二くんに聞いたのだ)
やっと先生は、天狗岩のことを思い出した。千二が、その天狗岩の上に、ふしぎな光をはなつ塔のようなものが立っているのを、見たと言っていたが、その天狗岩だ。
また、千二は、天狗岩の上へのぼっていって、そこで怪しい生物と、組打をやったと言っていた。その生物と、組合ったまま、岩の上からころがり落ちて、湖にはまった。だが気がついて見ると、例の丸木という怪人がそばにいて、これは火星のボートだと言った。
そういうわけだから天狗岩というのは、この度の事件と、切っても切れないふかい関係のある岩である。
(この岩は、後になって、火星岩と名をかえた。それほど、後になるほど有名になった岩だった)
その天狗岩で千二の父親が大怪我をしたとは、よくよくつきない縁のある岩である。
だが、一体千蔵は、どうして怪我をしたのであろうかと、いろいろ考えながら歩いているうちに、ついに千蔵の家の前まで来た。
たいへんな人だかりであった。村人が、たくさん集っている。みな、心配そうな顔であった。
新田先生は、人波をわけて、中にはいった。すると、ぷうんと、消毒薬のきついにおいがした。奥には、白いうわっぱりを着たお医者さんが、看護婦相手に病人の手当をしているのが見えた。
「どうもいけない。困ったもんだ」
と、千蔵を見ているお医者さまが言った。
新田先生は、玄関に立って、それを聞いていた。
「困りましたわねえ」
と、そばについている看護婦が言った。
「なんとか気のつく方法は、ないものですかなあ」
と言ったのは、勝手の方から、氷ぶくろをかえて来た中年の男だった。近所の人らしい。
新田先生は、そこでしずかに礼をして、はいっていった。先生が名乗をあげると、お医者さんをはじめ次の部屋へつ
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