火星人の勝で、地球人類の負となるだろう。これはたいへんなことになったものである。
「では、二十四時間の後に、お前たちは、人間狩に出発するのだぞ。それまでは十分に養分をとったり、人間に見あらわされないような練習を積んだりしておけ」
丸木は、隊長らしくおごそかに命令し、そうして心こまやかな注意を、部下たちに与えたのである。
先生は、さしせまった事件を前になやんだ。
35[#「35」は縦中横] 佐々《さっさ》刑事
こっちは、佐々刑事であった。
彼は丸木のあとを追ってくらがりの中を歩いているうちに、とうとう相手のすがたを見失ってしまった。
実はその時、丸木は隊員のところへ行って、例の二十四時間後に、東京へ出発のことを話すため、洞穴の中へはいっていったのである。そうして丸木の話は、新田先生によってすっかり聞かれてしまったのである。
そうとは知らない佐々刑事は、丸木のすがたを見失ったことを、大変残念に思いつつ通りかかったのが、一隻の火星のボートのそばだった。
その火星のボートは、例の通り大きな塔のような巨体を、地に対して、すこしかたむきかげんにしてそびえ立っていたが、ふと見ると扉が少しあいている。
「おや、これは……」
火星のボートの出入りは、かなりきびしかったから、これまでも、佐々刑事はその内部をうかがおうとして、ついに一度も、その目的をはたすことが出来ないでいた。ところが、今めずらしく火星のボートの扉が少しあいていて、中からぼんやりとあかりが見えるのであった。
「ふむ、これはもっけの幸いだ」
と、佐々刑事は身をひるがえすと、ボートのそばへ近づいた。
扉に手をかけて中をのぞいたが、いいあんばいに、誰もいない。火星人の番兵か誰かが、扉のかぎをかけ忘れて、どこかへ行ってしまったらしい。
「こいつはしめた。しからば、まっぴらごめんと、中へ入ってみるか」
佐々刑事は、およそ世の中に、恐しいというものを知らない人間だった。だから扉があいておれば、後のことはたいして心配しないで、のこのこはいって行く彼だった。
佐々刑事は、丸木と同じような姿をして、火星のボートの入口から中へはいりこんだ。
誰もいない!
「おやおや、誰もいないぞ。どうしたというのかなあ」
佐々刑事は、あたりをぐるぐる見廻しながら、しばらくそのへんを歩き廻った。がらんとした部屋で何も
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