ない。
そのうちに、彼は何の気なしに、扉に手をかけて動かしてみているうちに、どうしたはずみだったか、扉が、ぐうっと動き出して、やがてばたんと音を立てて閉まってしまった。
「あれっ、扉が閉まったぞ」
と、佐々刑事は、扉のところへ行ってハンドルを握り、扉をあけにかかった。
ところがハンドルは、どうしたものか、右にも左にも、廻らなかった。したがって、扉はしまったきりで、あかないのである。
あたり前の人間なら、このへんで顔色を変えて、おどろくところであるが、さすがは佐々刑事である。べつだんおどろく様子も、あわてる様子もなく、
「ははあ、扉にかぎがおりてしまったんだろう。が、まあいいや。そのうちに、誰かがあけるだろう」
と、おちついたもので、彼は次の部屋へはいって行ったのである。
次の部屋は、大変くさかった。彼がまだ一度もかいだことのない変なにおいであった。その部屋は、休憩室らしい様子であった。ここにも、誰もいなかった。
もう一つ次の扉をあけると、そこは機械室になっていた。天井は急に高くなって、ビルヂングの床を三階分もぶちぬいたような高さであった。そこは、たしかに機械室には違いなかったが、地球上にある工場では、こんな風変りな機械室を持っているところはない。まるで、化学工場と変電所と要塞砲とを組合わせたような形だ。
火星のボートの中を、すみずみまでよく見て廻ったのは、人間では佐々刑事が始めてであろう。
佐々は階段をのぼって、だんだん上へいった。そうしてとうとう頂上までいった。
すると、どこからか、何かしきりに話をしているような声が聞える。
「はてな、誰だろう?」
と、佐々は廊下に立ちどまって耳をすました。
話声は、壁の中から聞えて来るのであった。
「はてな、この壁の中に部屋があるらしいが、どこから出入するのかなあ?」
と、佐々はあたりを見廻したが、別に扉もない様子であった。
その時、話声はぴたりととまった。
「おや?」
と、佐々は壁の方に耳をすりよせた。すると、どこかで、するすると扉の開くような音がした。佐々は、すばやくまたあたりを見廻した。
「あっ」
ちょうど、彼の立っていたところの後の廊下のまん中に、大きな円い穴があきかかっている。それは、見る見る大きくひろがって、人間のからだがはいれるくらいの大きさになった。佐々は、これを見ると、すばやくか
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