新田先生はおどろいて、その場にはね起きようとしたが、相手のために肩をおさえつけられた。それは、かなりの強い力だったから、新田先生は起きあがることが出来なかった。
「そうだ。わしは丸木ですよ」
と、黒マントの男は、へんにしわがれた声で言った。
「君は丸木か。いつぞやは、私《わし》をひどい目にあわせたな。それはいいが、君はまた千二少年をさらって、どこへ連れて行ったのか。早く返したまえ」
怪人丸木は、それには答えず、
「新田先生。我々は、あなたに相談があるのだ」
穴の中の広間で、めずらしくも、怪人丸木と新田先生とが、にらみあっている。
その丸木が、いつになく、やさしい猫なで声を出して、新田先生に相談があると言ったのである。
「相談とは、何です」
と、新田先生はゆだんをしない。
すると、丸木は、
「まあ、そこへおかけ」
と言って、先生に、腰かけにちょうどいいほどの大きな石ころをすすめ、自分はのっそりとつっ立ったままで話をはじめた。
「どうぞ、君もおかけなさい」
と、先生は礼儀正しく、丸木にも腰をかけることをすすめたが、丸木は、いや、私は、この方がいいのですと言って、あいかわらずつっ立ったままだった。他の火星人は、先生と丸木とをとおまきにして、つっ立っている奴もあれば、無作法《ぶさほう》にもごろんと地面に寝そべっている者もあった。
「ところで、新田先生。相談というのは外でもないが、先生は、この地球がやがてモロー彗星と正面衝突して、ばらばらにこわれてしまうのを知っているでしょうね」
「知っていますよ」
と、新田先生は、すぐに返事をした。
「それが、どうしたのですか」
「いや、どうもしやしませんが、モロー彗星に衝突されると、皆さん、地球の人類は、死んでしまうわけだが、その対策は出来ていますか」
「対策というと……」
「つまり、その場合、何とかして助かる工夫が出来ているかと、私は聞くのです」
「さあ、それは……」
と言ったが、先生は、返事につかえた。
日本をはじめ、世界各国では、その日の用意として、全工業力をあげてロケットをたくさんつくっていると噂に聞いているが、それを丸木に話していいものかどうか?
丸木の眼が、黒眼鏡の奥で、きらりと光ったようである。
怪人丸木の質問に、新田先生はどう返事をしようかと、迷ってしまった。
丸木は先生の困った様子を見てとっ
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