とかジュラルミンなどを使うのであるが、この火星のボートでは、そんな金属は使っていない。それは、みたこともない青褐色の材料で出来ていた。先生が軽く叩いてみたところでは、なかなか固く、ひょっとすると鉄などよりも、もっと固いのではないかと思われた。
 それからこのボートが、地球以外のところで出来たらしいしるしは、まだ、ほかにもあった。今の外壁のことであるが、どこにもつぎ目がない。もちろんリベットなどは、一つも打ってない。これほどの大きなものを、リベットもつぎめもなくして作りあげることは、とても人間わざでは出来ない。
 まだ違うところがある。
 それは窓である。我々が知っているような窓は、窓わくを持っていて、そこへふたのようなものがはまるのであるが、火星のボートへよって、先生が見たところによると、そうはなっていない。窓のあいているところは、まわりから中央へ向かって、写真機のしぼりのようにしぼられて、しまるのであった。全くへんな窓である。
 これらのことから、新田先生は、このボートは、火星人が作ったものに違いないと思った。
 火星の宇宙ボートの前に、新田先生が立っている。
 先生は、この宇宙ボートの珍しい姿に、すっかり気を奪われていた。そのあたりに、火星人が、うようよいることを、忘れていたのである。それは、ほんのちょっとの間のことだったが……。
 先生が、はっと我にかえった時は、もう遅かった。何者かが、先生の両腕をうしろから強い力で、ぎゅっとおさえつけた。
「あっ、しまった」
 と、先生がそれをふりほどこうとする間もなく、今度は、先生の両眼が見えなくなってしまった。それは、うしろから、いやにぬらぬらするゴム布のようなもので、目かくしをされてしまったのである。
 いくら、じたばたやって見ても、うしろから、先生の腕をおさえている力は、たいへん強く、それを無理にふりほどこうとすれば、先生の腕の方が、今にもぽきんと折れそうになった。
(騒ぐだけ損だ!)
 先生は、勇気をなくしたわけではなかったけれど、今、じたばた騒いでも、こっちの体が痛くなるばかりなので、手向かうことをやめた。あとで、相手にすきが出来た時に、力一ぱい腕をふるうことにした方がよいと、賢い新田先生は早くも見てとった。
「な、何をするんだ、君がたは……」
 先生は、おちつきの心をとりかえしながら、相手を叱りつけた。
 先生
前へ 次へ
全318ページ中136ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング