って、そうしてちかちかと、薄い光がさしていた。
 この人跡《じんせき》まれな山中に、火星の宇宙ボートが着いている。
 新田先生の驚きは大きかった。
 火星の生物は、この山中に宇宙ボートを着けて、一体何をやるつもりなのであろうか。
「早く、このことを知らせなければ、たいへんなことになる!」
 と、新田先生はいらいらして来た。
 では、このまますぐ山を下ろうか。
(いや、このまま山を下ったのでは、物足りない。火星の生物は、まだ自分が近くにいることを知らないだろうから、もっと彼らに近づき、彼らの様子を、もっと調べたうえで、山を下ることにしたい)
 新田先生は病後の体ではあるが、この一大発見をして、ここで自分は、もっとがんばらなければ、日本国民――いや、世界人類のために申しわけないと考えた。
 そこで先生はかたく決心をすると、またしげみの中を、そろそろと前進して行った。何とかして、目の下に見えるあの火星のボートまで、行ってみようというのである。
 先生は、しげみの中を巧みにくぐりぬけ、ある時は岩かげを利用して、だんだんと火星のボートに近づいて行った。
 気味の悪いボートは、だんだん大きくなって来た。実に、いやな気持のする色である。地球の人類ではないものが作っただけのことはある。小さい窓みたいなものが、見えて来た。穴みたいなものがあった。そこからは、うす赤い煙のようなものが、すうっと出ていた。しかし火星人の姿はもう見えなかった。みんな、どこにはいってしまったのであろうか。
 だが、火星人の姿が見えないのを幸いに、新田先生は、誰にもとがめられずに、ずんずん近づくことが出来た。そうしてとうとう火星の宇宙ボートの側までやって来た。
 ボートを見上げて、新田先生は、そのボートの高さが、三階建の家ぐらいあるのに、今さらのように驚いた。
 新田先生は火星の宇宙ボートのまわりを、そっと廻って見た。
 先生は今初めて、目のあたりに火星の宇宙ボートを見るのであった。それは全く不思議な乗物だった。だが、いつ、火星人たちに襲われるか知れないので、先生は、あまりゆっくり見ていることが出来なかった。
 ほんの僅かの間、きょろきょろと見廻しただけのことだったけれど、先生は、これは確かに火星の宇宙ボートであるに違いないと思った。そのわけは、火星のボートの外壁を見ても、それは地球の人類が作るなら、かならず鉄
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