いと思う。話は、わき道にそれたが、このことだけは、くれぐれも賢い諸君にお守り願わねばならぬ」
そう言って、リーズ卿はそこで深いため息をついたのだった。
リーズ卿は、蟻田博士ほど火星の生物について、ふかいことは知らないような放送ぶりであった。果して卿は知らないのであるか、または知っていても言わないのか、そこはまだよくわからない。
蟻田博士が、リーズ卿の放送を聞いたら、どんな感想を持つであろうか。ざんねんながら、蟻田博士の行方は知れないのであった。くわしく言えば、昨年の東京地方の大地震以来、どこかへ行ってしまったのか、それともまた、どこかの軒下で押しつぶされたのか、とにかく博士の消息はさっぱり聞かないのであった。
リーズ卿の放送は、実は、まだもっと先があったのである。
「とにかく、この二つの心配――つまり、火星の空気がうすいことと、火星人と仲よく助けあって住んでいられるかどうかということ――この二つの心配が、火星移住をきめるについて、暗い影を投げる」
「その外、食物の問題もあるが、これは何とか解決がつくだろう。火星の上に空気があり植物があることがわかっているのだから、我々人間に食べられる野菜みたいなものがあってもいいはずだと思う」
「それからまた、火星の上は、夜はたいへん寒く、一日中の気温のかわり方も、たいへんはげしいから、我々人間がそれにたえることが出来るかどうかという心配もあるが、これは防寒具を持って行けば、何とかなるだろうと思う」
「また、火星へ移住するためのロケットは、つくり上げたものが、もうかなりわがイギリス国内にもあるし、諸外国もそれぞれ工場を大動員して、たくさんのロケットがつくられているはずであるから、モロー彗星と衝突する日までには、相当たくさんのロケットが、世界各地に備えつけられることになろう。この点についても、諸君は心をしずかにしていていいと思う」
卿の言葉は、なかなかつきなかった。
リーズ卿の放送には、世界各国の人たちが、水をうったように、耳をすまして聞入っていた。モロー彗星との衝突は、もはやさけることが出来ない今日、我々人類は、どうしてその後の生命を全うすることが出来るか。それは誰もの、ぜひ知りたいところであった。
卿の放送は、いよいよおしまいに近づいたようである。
「つまり、ひっくるめて言うと、モロー彗星の衝突によって起る惨害から救
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