らなければならなかったのである。
とけない謎は、怪人丸木と千二少年の行方であった。二人の体は、棟木の下に見つからなかった。どうやら二人は、命が助かったものらしい。そうして千二は、丸木のために連去られたものと思われた。そうして二人は、消息をたってしまった。
その年は、混乱の中にあわただしく暮れ、新しい年が来た。
27[#「27」は縦中横] 大警告《だいけいこく》
元の体になるかどうか、あやぶまれた新田先生の傷も、年があらたまるとともに、不思議によくなって行った。
先生が、怪人丸木のため頭部に受けた深い傷は、先生をながい間気が変になった人にしておいた。ところが、このごろになって先生は、ようやくあたりまえの人にかえり、看護婦たちと、やさしいお話なら出来るようになった。
しかし、新田先生が、ほんとうに以前の元気な体になるのは、まだ一箇月の先のことであろうと思われた。
先生が、病院のベッドの上に寝ているあいだに、世の中は、たいへんかわった。
東京地方をおそった例の強い地震は、大正十二年の震災ほど大きな災害を与えはしなかったが、それでも東京市だけで言っても、市の古い建物はかなり崩れ、また火事が十数箇所から出て、中にはたいへん広がったところもあったが、多くは、日頃訓練のとれている警防団や、隣組などの働きで、余り大きくならないうちに消しとめられた。一番被害の大きかったのは、水道と電気であった。これは、元のように直るのには、約三箇月もかかった。
どちらかというと、東京地方の震災は、それほどさわがれなかった。それは震災の程度が軽かったというのではなく、その時別に、もっとたいへんな、しんぱいになる事件があったのである。それは外でもない、モロー彗星が、いよいよ地球の近くに迫ったことであった。
東京だけではない、日本国中は、その日に対する準備のため、上を下への大さわぎであった。工場という工場は、昼と夜との交替制で、たくさんの技術者を使って、宇宙旅行に使うロケットの製造に目のまわるような、いそがしさであった。
日本だけではない。ドイツもイタリヤも、イギリスも、アメリカも、ロシヤも、フランスも、それから満洲も、中国も、大さわぎである。
足の下に踏みつけている地球が、こなごなにこわれてなくなるのだというから、これほど恐しいことは外にない。
一体、地球の上の人類
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