木は、ついに床の上に、どしんと転がった。首は、手からはなれて、壁にぶつかった。
「しめた!」
佐々は、連の警官に目くばせして、起きあがろうとする丸木の上から、どうんと、とびついた。
それから先が、たいへんなことになった。丸木は二人力も三人力もあるとみえ、なかなかひるまなかった。三人は、上になり下になり、蟻田博士の秘密室に、ほこりをたてた。勝負は、なかなかつかない。
その組打のまっ最中に、とつぜん思いがけない一大|椿事《ちんじ》がもちあがった。
それは、どうんという地響《じひびき》とともに、にわかに床が、ぐっと上にもちあがると、たちまち部屋は、嵐の中に漂う小舟のように、ゆらゆらと、大ゆれにゆれはじめたのであった。
地震? 地震なら、よほどの大地震であった! 壁は、めりめりと大音響をあげて、斜に裂けだした。柱がたおれる。天井がおちて来る。あっという間に、五人の者は、倒壊した建物の下敷になって、姿は見えなくなった。
思いがけない大異変であった。五人の運命はどうなったか?
思いもよらない大地震に、蟻田博士の建物は、がらがらと崩れてしまった。
その下になった人々は、一体どうなったであろうか。真夜中のこととて、さわぎはなかなか大きかった。
もし、元気な佐々刑事が、運よく外にはい出さなかったとしたら、他の人たちは、どんなことになったか知れない。
暁近くなって、ようやく崩れたあとを掘りかえしはじめたが、最初に見つかったのは、佐々の連《つれ》の警官の死体であった。いたましくも、彼は殉職してしまったのである。
佐々は作業隊をはげまして、さらに、発掘をつづけた。すると、今度は、折重なった柱の下から、新田先生が出て来た。
「おお、新田先生。しっかりしなくちゃだめですよ」
佐々は声をかけた。新田先生は、まっ青な顔をして、ものも言わなかったけれど、生きている証拠には、かすかに瞼《まぶた》をうごかした。
助け出された先生は、かなりの重体であった。ことに、丸木のために頭に加えられたうち傷はかなり深く、それに時間もたちすぎているので、その経過があやぶまれた。それで、救護班の手によって、大いそぎで病院に送られて行った。
何しろ東京全市も大混乱しているので、新田先生の手当も、早くしなければならぬのに、だんだんおくれて、その結果新田先生は、それから数箇月後までも、病床に横たわ
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