ようなかっこうをした。そんなことをされれば、先生は、ほんとうに死んでしまう。
 あわれ新田先生も、ついに怪物丸木のために、け殺されるかと思われた。そんなことがあれば、千二のなげきは、どんなに大きいだろうか。
 重傷を受けて、床上に苦しむ先生を、何とかして助ける工夫はあるまいか。
 ちょうど、その時であった。蟻田博士の秘密室の扉が、ばたんとあいた。
「待て、曲者《くせもの》!」
 と、大ごえをあげて、室内へ飛込んで来た者があった。
 丸木は、ぎょっとしたようであった。
 入口の方へふりむくと、そこへかけこんで来たのは、佐々刑事と、もう一人は制服の警官だった。
「おう、手荒いことをやったな」
 と、新田先生の倒れている姿をみとめ、丸木の正面にまわり、
「おや、お前は例の崖下で見た、首のない化物だな。いいところでお目にかかった。おい君、綱をつかって、こいつをふんじばってしまおう」
 と、連《つれ》の警官に目くばせした。
 丸木は、うーう、うーうとうなっている。新田先生一人さえ、かなりもてあましぎみだったのに、今度は二人の新手《あらて》が飛出した。ことに佐々刑事とは、この前、崖下で組打をやり、その時首を落されてしまったのである。これはわるいところへ、にが手がやって来たものと、丸木はちょっと困っているらしい様子が見える。
「おお、静かにしろ。出来なければ、これをくらえ」
 佐々刑事は、綱を輪にして、ぴゅうっと、丸木の肩へうまくすっぽりとひっかけた。そこへ、また連の警官が、もう一本の綱をひっかけたので、両方からひっぱられて、丸木の腰はぐらぐらになった。が、彼も怪物である。また首を肩の上にのせると、獣のように、うおっと吠えた。
 怪物丸木と、佐々組の二人との決闘であった。
 丸木は、胴中を佐々刑事たちの二本の綱で、ぎゅうぎゅうとしめられながら、決してそれでまいる様子はなかった。彼は、獣のようなこえを出すと、千二少年を隅へほうり出した後、部屋のまん中へとびだして、あばれだした。
 たいへんなあばれ方である。丸木もほんとうに死にものぐるいらしい。
「こら、しずかにせんか。あとで、ほえづらをかくなよ」
「ううーっ」
 丸木が、体を一ふりすると、佐々と警官とは、綱を持ったまま、よろよろと前につんのめりそうになった。しかし、すかさず、また綱の端を、丸木の片足にかけて、えいやと引いたから、丸
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