は、負けないで大きな声でやりかえした。
「誰が降参すると言った。先生こそ、おとなしくしないと、いのちがないぞ」
「ばかを言うな。誰が降参するものか」
 と、新田先生は、またはげしくつっかかって行った。
「おい、待てというのに、話がある!」
「話? 何の話だ。それより先に、その少年を放せ」
「いや、放さん」
「じゃあ、たたかうばかりだ。この怪物め!」
 先生は、もうれつに相手の体にぶっつかった。
 怪物は、肩から落ちそうな首を、上からちょいとおさえて、身をひるがえした。
「おい待て。そんなに、らんぼうをすると、僕は……」
 と、怪物は、少しひるんだような声を出した。
 先生は、怪物の胴にしっかりとだきついた。
 その時、不思議なことに、怪物の胸もとあたりから、妙ないきづかいが聞え、先生をおどろかした。
「おや、へんだなあ。この怪物は、ふところに、何か入れているかしら」
 新田先生は、怪物の胴にしがみついて、はなれない。
「こら、放せ。放さんと、いのちがないぞ」
 怪物の声が、先生のあたまの上から、きみわるくひびく。しかし先生は、千二少年を助けたい一心で、もう死にものぐるいでしがみついている。先生の顔は朱盆のようにまっ赤だ。
 先生は、怪物を床にたたきつけてやろうと思って、えいやえいやと腰をひねったが、この怪物の力の強いことといったら、話にならない。
 そのうちに、怪物が急にだまりこんだ。と思ったら、新田先生は、頭にはげしく一撃をくらった。あまりはげしくなぐられたので、先生は、頭がわれてしまったかと思った。
「うぬ、負けるものか」
 先生は、がんばった。
 だが、それにつづいて、また第二の一撃がやって来た。それは、前よりもさらに強い一撃だった。さすがの先生も、
「あっ!」
 と言って、両手で頭をおさえた。そうして大きなひびきを上げて床の上にたおれてしまった。
 怪物丸木は、妙な声をあげた。それは、うれしそうに笑っているようなひびきをもっていた。
 千二は、おどろきのあまり、さっきから失神したまま、丸木の手にかかえられていた。
 丸木は、つかつかと先生のたおれているそばへやって来た。そうして腰をかがめて、先生の様子をうかがった。
 先生が、曲げていた腕を、ぐっと伸ばした。
「ふん、まだ生きているな」
 丸木は、そう言うと、片足をあげ、新田先生の鮮血りんりたる頭を、けとばす
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