上から何かうなるような声が聞えた、と思つていると、階段上の蓋は、左右にぐうっとあきだした。
 蓋はあいたのだ。今こそ、外へ出られるようになった。
「さあ、おいで。千二君、早く……」
 と新田先生は、千二の手を取り、階段を上にかけ上った。さだめし、そこには博士が白い髭をぶるぶるふるわせ、大おこりにおこって、つっ立っていることだろうと思った。――ところが、それは思いちがいであったのだ。
「あっ、君は……」
 床の上におどり上った新田先生は、非常な驚きにぶっつかった。先生は、さっと体をひねると、自分のあとから出て来た千二を後にかばった。
「き、君は、何者だ! 生きているのか、死んでいるのか」
 いったい先生が目の前に見た相手というのは、何者であったろう。
 黒い長いマントを着た肩はばのいやに四角ばった怪物が、新田先生に向かい合っている。だが、その怪物には首がなかった。
 首のない長マントの怪人だ!
 さてこそ、新田先生は、「君は生きているのか、死んでいるのか」とたずねたのだ。
 その怪人は、獣のように低くうなるばかりで、口をきかなかった。
「向こうへ行け。ぐずぐずしていると許さないぞ」
 よわ味を見せてはたいへんと、新田先生は、はげしい声で相手を叱りつけた。
 が、その怪人は、べつに驚く様子もなかった。もっとも、首がないのだから、どんなことをしても顔色が見えないので、見当がつかない。
 先生は、千二の手を取って、怪人の前をすりぬけようとした。
 その時、首のない怪人は、黒いマントの下から、にゅうと腕を出した。そうして、あっという間に、千二の肩を、ぎゅっとつかんだ。おお一大事だ!
 蟻田博士邸の秘密室のまん中!
 とつぜん、新田先生と千二少年の前にあらわれたのは、首のない怪人! 先生が後に千二をかばうひまもなく、黒い長マントの怪人は、腕をのばして、千二の肩をむずとつかんだのである。さあ、たいへんなことになった。
 この怪人は、一体誰であろうか。
 あの自動車事故のあった崖下を、うろうろしていたあの怪人であった。そうして佐々刑事とたたかっている時、首をぽろんと落したその怪人であった。
 大江山捜査課長は、この怪人こそ、例の丸木であるにちがいないとにらんでいた。
 そのにらみに、まちがいはなかった。この怪人こそ丸木だったのである。
 一度は、千二をつれて銀座に案内させ、ボロンの
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