けるのだった。もし二人が、地下階段から床にのぼれば、待っていましたとばかり、二人の首っ玉をおさえるつもりのように思われる。
「先生、誰でしょう? この上を、歩いているのは?」
 千二は、新田先生のそばにすり寄って、低い声でたずねた。
「さあ、誰だろうか。先生もさっきから考えているんだけれど、よくわからない。博士が帰って来たのかも知れないが、それにしては、あの足音が、あまり響きすぎる」
「足音が響き過ぎるというと、どんなことですか。足音が怪しいのですか」
 新田先生は、うなずいた。
「千二君。よく耳をすまして聞いていたまえ。博士は、老人だよ。そうして体もたいして大きくないのだ。そのような老人にしては、あの足音は、あまりにどしんどしんと響き過ぎるのだ。まるで、鉄でこしらえたロボットが、足を引きずって歩いているようではないかねえ」
 千二は、それを聞いて、にわかに、薄気味が悪くなった。まさか、ロボットが!
 新田先生と千二少年は、だんだん不安になって来た。
 せめてその足音が遠くなるようにと、心の中にいのっていたが、意地わるく、その重くるしい足音は、いつまでたっても、二人の頭上から去らなかった。
「私たちを、いつまでも、この地下室に閉じこめて置くつもりなのだよ」
 先生はそう言った。足音は、同じところを、こつこつと、ぐるぐるまわりしているのだった。
「先生、僕たちは、どうなるのでしょうか」
 千二は、心細くなって、思わず、先生にひしと抱きついた。
「こうなれば仕方がない。あっさりと、あやまるより外ないだろうね」
「つまり、ここから、上に聞えるように、大きな声であやまるのさ。博士の留守に、地下室へもぐりこんだことを、すなおに、あやまるんだよ」
「残念ですねえ」
 先生は決心した。そうするより外に、やり方はないと思った。自分一人だけならいいが、千二少年を、いつまでもこんな気味の悪いところにおくのは、かわいそうだと思ったのだ。
 そこで、先生は、階段を上までのぼった。そうして右手を上にのばして、蓋《ふた》の下から、どんどんと叩いた。
「あけて下さい。ここをあけて下さい」
 新田先生が、そう叫んだ時、頭上をこつこつと歩いていた足音は、にわかにぴたりととまった。
 だが、別に答えはなかった。
「早くここをあけて下さい」
 先生は、ふたたび、はげしく蓋を下から叩いた。すると、今度は、
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