で来た。
「課長、帰って来ました。ところで、今、蟻田博士にすれちがったのですが、あの博士の様子が、いやにへんなんですがねえ」
「佐々。博士を追跡しろ。そうして、当分お前は博士を監視するんだ!」
 火星のボートが残して行ったと思われる、青い色のむちのようなものを、蟻田博士がさらって逃げた。大江山課長は、元気者の佐々刑事に、追跡して監視しろと命じた。
 佐々は、いまかけ上って来た階段を、またどかどかとかけ下りて、警視庁の玄関からとび出した。
 こっちは、課長のそばにいた当番の警官であった。佐々のとび出して行った戸口を、あきれたような顔で見送りながら、
「課長。佐々刑事は黙ってとび出しましたが、あれでいいんですか」
「何が?」
「つまり、博士の行方が、佐々刑事にわかっているでしょうか。博士はどこへ行ったか、もう姿は見えなくなっているはずです。どうも、あの佐々刑事と来たら、気が短く、早合点の名人ですからねえ」
「ああ、そのことか。そのことなら、彼のことだから何とかやるだろう」
 佐々は、玄関の外にとび出したが、博士の姿はもう見えなかった。
「しまった。どっちへ行ったのかしら」
 玄関を警戒していた同僚に、博士がどっちへ行ったかをたずねたが、誰も知らない。戸外をすかして見たが、街灯がほの明かるい路面には、夜更《よふけ》のこととて、行人の姿は見えなかった。
「しまった」
 刑事は、案にたがわず、博士の行方を見失って、弱ってしまった。
 が、彼は、突然手をうった。
「そうだ。なあんだ、わかった、わかった」
 刑事は、急に元気になって、自動車を呼んだ。
「どっちへやるのかね」
 と、運転台の同僚が聞いた。
「麻布だ。蟻田博士邸へ直行してくれたまえ」


   25[#「25」は縦中横] 去らぬ足音


 話は変って、ここは、蟻田博士邸の地下室の中だ。
 新田先生と千二少年とは、階段の下に閉じこめられて、どうしてよいか困ってしまった。誰がどうして階段の上の蓋を、しめてしまったのだろうか。それをいぶかる折しも、二人の頭上に、こつ、こつと重い足音が近づいた。誰もいないはずの部屋に、人の足音がする! では、博士が帰ってきたのか? それとも、別の人であろうか。新田先生と千二少年とは、声をのんで、じっと足音のする頭上を見上げた。
 こつ、こつ、こつ、こつ。
 怪しい足音は、なおも頭の上を歩き続
前へ 次へ
全318ページ中117ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング