ないのかね。号外は出たのかね」
「いや、どっちも今、報道禁止にしてあります。そんなことを知らせては、どんなさわぎが起るか、大変ですからね」
課長は、ほんとうに心配そうな顔をして、そう言った。
「そんなことは、一刻も早く、全国の人々に知らせるのがいい。かくしておくのは、かえってよくない」
地球とモロー彗星とが、やがて衝突するであろうというニュースを、博士はすぐさま人々に知らせよと言う。
「もちろん、いずれ知らせますが、その前に、我々は、十分責任のある用意をしておかなければなりません」
と、大江山課長は言う。
「責任のある用意とは?」
「それは、つまりその恐るべきニュースを聞いて、あばれ出す奴が出たら、すぐ捕えてしばり上げる用意をすることです」
「そんなつまらんことを、心配するには及ばないだろう。もっと大事な……」
「そうです。我々はそれも考えています。第二の用意は、その衝突が果してほんとうに起ることかどうか、それをたしかめなければなりません」
「よくよく、ばかばかしいことを考えたもんだ。それよりも、もっと……」
「まあ、お待ちなさい。我々の第三の用意は、もしほんとうに衝突が起るものとすれば、何とかして衝突しないですむ方法はないかと、それを研究すること」
「泥棒をとらえて縄をなうというのは、このことだ。ばかばかしい」
「いや、我々は、すべてのことに手落があってはならないのです。第四の用意としては……」
「第四の用意? ずいぶん用意をするのだねえ」
「そうです。第四の用意は、もし衝突が起っても、我々日本人だけを死なさずに、何とか助ける方法はないものかどうか」
「雲をつかむよりむずかしい話だ」
「第五の用意は……」
「わしは、もうたくさんだ。ばかばかしくて、黙って聞いていられんよ」
蟻田博士は、大江山課長の言うことを、一々だめだとやっつけた。
だが、博士は、帰る帰ると言ってなかなか帰らず、課長の机の前で、もじもじしていた。
「課長。総監がお呼びです」
一人の警官が、大江山課長を呼びに来た。課長はうなずくと、そそくさと自分の席を立って、向うへ行った。
その課長の姿は、衝立《ついたて》の後へ消えたが、そこで彼は、足をとどめた。課長を呼びに来た警官も、また、そこで足をとどめて、課長の顔を、興ありげに見た。
「課長。あの老人の写真をとるのですか」
「いや、今日のは、違
前へ
次へ
全318ページ中115ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング