たりしはじめた。
 すると、どうかした拍子に、その青いむちのようなものが、ほんのわずかではあったけれど、半殺しの蛇《へび》のように、ぴくぴくと動いた。そうして先の方がくるると円く輪になった。
「ほう、こいつは大発見だ!」
 博士は、熱心を面《おもて》にあらわして、なおもさかんに指先でいじりまわしたが、一度蛇のように動いた後は、二度とそんなに動かなくなった。
 大江山課長は、さっきから博士のじゃまをしないようにと思い、さしひかえていたが、もうがまんが出来なくなって、
「博士、その珍品《ちんぴん》は一体、何に使うものだかおわかりですか」
 と、せきこんで聞けば、博士は無言で、首を左右にふるばかりだった。
「博士、なぜ教えて下さらないのですか。博士には、おわかりになっているはずだと思うのに……」
 大江山課長の言葉に、博士は、はじめてそのむちのようなものから目を上げ、
「わしにも、さっぱりわからないのだ。わしはこれを研究してみたいと思う。どうだろう、これをもらって行っていいかね」
「いえ、それはだめです。持って行ってはいけません」
 大江山課長は、博士の手からその青いむちのようなものを、うばうように受取って、すぐさま箱の中に入れてしまった。
 博士は、気のどくなくらいがっかりして、
「たった一日でいいが、貸してくれんか」
「いや、だめです」
「じゃあ、もう十分か二十分か見せてくれんか」
「だめです。お断りします」
「そんなら、ぜいたくは言わない。もう五分間見せてくれ」
 課長は博士の頼みをあくまでもしりぞけた。そうして箱にふたをしてしまったけれど、箱を元の金庫にしまうことはしなかった。
「ねえ、博士」
 博士は、箱をじっと見つめて、よだれをたらさんばかりであった。返事もしない。
「ねえ、博士。さっきあなたは国際放送をお聞きでしたか。地球がモロー彗星に衝突するという……」
 課長のこのだしぬけの質問は、博士を驚かせるに十分であった。
「なに、地球がモロー彗星に? そんなことは、わしには前からわかっていたが、誰がそんなことを君の耳に入れたのか」
「国際放送ですよ。ロンドンとベルリンとからです。どっちもりっぱな天文学者が放送しました」
「ふうん、そうか。あいつらもやっと気が附いたとみえるのう。それで、わが日本では、誰が放送したのかね」
「まだ誰も放送していません」
「なぜ放送し
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