がの課長も困ってしまった。が、ふと思いついた一策!
「蟻田博士。あなたに、おもしろいものをごらんに入れましょう」
博士は、おこってしまって、席を立ちかけたところだった。そこへ、とつぜん課長から声をかけられたのだった。
「おもしろいものを見せるって?」
博士は、その言葉にすいつけられたように、後へかえりかけたが、
「いや、もうその手には乗らないぞ。わしは、もう君たちとは会わんつもりだ」
課長は、博士の言葉にはかまわないで、後にあった金庫をあけて、一つの長い箱を持出した。
「博士、さあ見て下さい。これは、火星の生物が落していったものです。一体、これは何だと思いますか」
課長が箱の中から取出したものは、いつか千葉の湖畔でひろって来た不可解な、むちのようなものだった。課長には、それが何であるか見当がつかなかった。また、課員に見せて智慧をしぼらせたがやはりわけがわからない。
仕方がないので、それを、鑑定してもらうため大学へ送ったが、あいにくその方の先生が旅行中で、鑑定が出来ないことがわかったので、ふたたび課長のところへもどって来たものだった。それを思い出したので、課長は、博士に見せることにしたのだった。
蟻田博士は、その青い一メートルばかりの長いむちみたいなものを手にして、目を光らせた。そうして、さっき課長になげつけた言葉などは、もうわすれてしまったかのように、このめずらしい品物を、どこでひろったのかなどと、いろいろと課長にたずねるのであった。課長は、博士のきげんがなおったので、このところ大喜びだった。そうして、いろいろと説明した。博士は、大きくうなずき、
「ふむ、これは実にたいしたもんじゃ」
と、いすの上にこしを下した。
蟻田博士が、ひどく感心した顔で、
(これはたいしたものだ!)
と言った長さ一メートル余りの、むちのようなものは、一体何であったろうか。
それを箱から出して、博士の目の前へ押しやった大江山課長は、博士のまたたき一つさえ見おとすまいと、じっと見つめているのであった。
「いかがです、博士。これなら博士をおひきとめした値打はあったでしょう」
博士は、ふんふんと、ただ間に合わせの返事をしながら、その青いむちのようなものを、しきりにひっくりかえして見ていた。やがて博士は、その一方のはしが、すこし太くなっているところへ、指先をあてて、押したり、離し
前へ
次へ
全318ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング