佐々刑事はいるかね」
机の上で電話をかけていた掛長が、
「いや、ここにはおりません」
「どこへ行ったのか、君は知らんか」
「はい、佐々君は、やはり麻布の崖の下で、警戒と捜索にあたっているはずであります」
課長は、なるほどとうなずき、
「そうか。電話をかけて、すぐ彼に帰って来いと、言ってくれ」
「はい、かしこまりました」
課長が、また室内に引きこもうとすると、当番の刑事巡査が飛んで行って声をかけた。
「課長。あの面会人ですが、いつまでおれを待たせると言って怒っていますが……」
「ああ、面会人だ。どこの誰かね、その気の短い面会人は?」
「蟻田《ありた》――だと、申していました」
24[#「24」は縦中横] 博士怒る
モロー彗星が、わが地球に衝突する――という国際放送を受けて、にわかに、色めき立ったわが警視庁!
その騒ぎの中に、大江山課長をたずねて来た蟻田博士が、あまり待たされるので、とうとうおこり出したという知らせであった。
「おお、蟻田博士だったのか、その面会人は……」
と、課長も大へん驚いたが、
「そうだ、ちょうどいい。博士に、すぐ会おう。今、すぐお目にかかるからと、そう言ってくれ」
と言えば、課長の前にかしこまっていた取次の刑事巡査は、ほっとした面持で、
「はい、そう申します。いや、どうも、あの蟻田博士という人は、扱いにくい人で困りましたよ」
と言って出て行ったが、間もなく入口のところで、その巡査の言争う声が聞えた。
「もし、蟻田博士、困りますなあ。こっちへ、はいることはなりません」
「いいやかまわん。大江山氏がすぐに会うというのだから、わしの方で、はいって行くのは、一向かまわんじゃないか」
「だめです、博士。応接室でお待ち願います」
「おうい、まあいい、博士をこっちへお通し申せ」
博士は、相変らずなかなか強情であった。白髪あたまをふりたてて、つかつかと大江山課長の前に近づくなり、
「おお、大江山さん。留置場にいる千二という少年に会いたいのだ。すぐ会わせてくれたまえ」
「千二少年ですか。彼は……」
と言いかけて、
「博士は少年に何用ですか」
「うむ、千二が、一しょにつれになっていた丸木という怪漢について、話を聞きたいのだ」
「丸木? 博士は、丸木について、何をお知りになりたいのですか」
と、大江山課長は、博士を怒らせないように、
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