ういうことをいきなり発表すると、国内の人々がどんなに驚き、そうして騒ぎ出すかも知れなかった。また、そのようなニュースが、あるいは嘘であるかも知れないので、ともかくも、よく調べた上にしなければならないと、当局者は考えたのである。
それで、この驚くべきニュースは、まずわが国の、一ばんえらい天文学者の集っている学会へ知らされ、ほんとか嘘か、これについて問合わせがあった。また一方では、警視庁のようなところへも知らせがあって、騒ぎの起らないように注意をするようにと、上からの命令があった。
大江山捜査課長のところへも、すぐさま知らせがあった。課長は、ちょうど、麻布の崖下で、崖から落ちた例の自動車事故の事件について、夜もいとわず、怪漢の行方について取調をしているところだったが、この驚くべきニュースを受けると、現場はそのままにして、急いで本庁にもどった。
「課長、さっきから、面会人が待っておりますが……」
と、部下の刑事巡査が、外から帰って来た課長の姿を見るなり、言ったことであったが、課長は、気ぜわしそうに首を振ると、
「ううん、面会人なんか後だ。それどころじゃない。まず、大変な事件の報告を聞くのが先だ」
と言って、奥の総監室に姿を消した。
総監は、真夜中にもかかわらず出て来ておられた。これは、それほど大きい事件であった。
何の打合わせがあったかわからないが、それから三十分ほどたって出て来た大江山課長の顔色は、いつになく、朱盆のように赤かった。
総監室を出て来た大江山課長は、たいへん興奮のありさまであった。
彼は、すぐさま自分の席にとって返すと、首脳部の警部たちを集めて、何ごとかを命令した。すると、その首脳部の警部たちは、共にうなずいて課長の前を下った。どの人の顔も緊張しきっていた。警部たちは、そのまま外に出て行った。
だんだんと、モロー彗星事件の波紋は広がって行く。警部たちは、まためいめいに自分の部下を集めて、鳩のように首をあつめ、何事かを伝えた。
それから、電話掛と無電掛がたいへんいそがしくなった。驚くべき警報と、何事かの密令とが、方々にとんで行ったのである。
そのうち、警官たちは一隊又一隊、剣把をとってどやどやと外に出て行った。庁内は、もう胸くるしいほどの緊張した空気で、満ち満ちていた。
その時、課長室の扉があいて、大江山課長が、顔を出した。
「おい、
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