一般の人々にとっては、まさに寝耳に水をつぎこまれたような大きな驚きであった。
 地球が、近く崩壊するのだ!
 モロー彗星というやつが、われわれの住んでいる地球にぶつかるのだ!
 大宇宙におけるその衝突は、来る四月だ!
 この放送を聞いた人は、はじめはとても信じられなかった。これはラジオドラマの一節じゃないかと、幾度もうたがってみたのであるが、不幸にも、それはラジオドラマでないことが、だんだんはっきりして来た。
 ロンドンとベルリンとから放送された地球崩壊の警告講演は、もちろん地球の隅々にまでも達した。
 その国際放送は、すぐさま録音せられ、そうして自国の言葉に訳され、時をうつさず再放送されたのであった。
 新聞社は、驚くべき手まわしよさで、このことを号外に出した。
 各国市場の株は、がたがたと落ちた。
 銀行や郵便局には、貯金を引出す人々が押掛けて来て、道路は完全にその人たちによってうずまった。自動車も電車も、みな立往生である。
 わりあいに落着いて、パイプを口にくわえて、この有様を見ていた老いたイギリス人が、がてんがいかないという風に首をふりながら、
「あいつら、何をさわいでいるのか、わしには、とんとわからん。地球がこなごなにこわれてしまうものなら、いくら札束を持っていても何にもならんじゃないか」
 すると、そばを通りかかったアメリカ人らしい若者が、
「おじいさんには、わからないのかね。僕は、銀行にあずけてある金を全部引出して、さっそく大きい風船をつくるのだ。ガスタンクほどもある大きいやつをね」
「ほほう、そうかね。そうして、その風船をどうするのかね」
「つまり、彗星が地球に衝突すると、地球が、こなごなになるでしょうがな。とたんに僕は、その大きな風船にぶらさがるのさ。すると、足の下に踏まえていた地球がなくなっても、僕は安全に宇宙に浮かんでいられるというわけさ」
 若者は、とくいになって言った。
「そうかね。それもいいが、わしは、彗星が地球にぶつかる時、お前さんの風船だけを残していかないだろうと思うんじゃが……」
 と老人が言うと、若者は、な、なあるほどと言って、とたんに腰をぬかしてしまった。
 モロー彗星が地球に衝突するという放送ニュースは、日本の国際無電局でもアンテナにとらえることが出来た。
 その驚くべきニュースは、事柄が事柄だけに、一時発表がとめられた。そ
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