の人類諸君よ!」
というリーズ卿の呼びかけの言葉と、
「わがドイツ民族諸子、および全世界の人類諸君よ!」
というフンク博士の呼びかけの言葉だけだった。
「ああ、諸君。本日ここに、諸君を驚かすニュースを発表しなければならない仕儀となったことを、予は深く悲しむものである。諸君よ、諸君が今足下に踏みつけている地球は、遠からずして、崩壊するであろう。従って、わが人類にとって一大危機が切迫していることを、まず何よりも、はっきり知っていただきたい」
と言って、ここで講演者は言いあわせたように、しばし言葉をとどめ、
「なぜ、われわれの地球が崩壊しなければならないか、それを語ろう。わが太陽系は、非常な速力を持ったモロー彗星の侵入をうけている。われわれは、本日念入な計算の結果、わが地球が、このモロー彗星との衝突を避け得ないという、真に悲しむべき結論に達した。われわれは、直ちに善後策の研究をはじめたが、如何なる有効な損害防止方法が発見されるか、それは神のみ知ることである。ちなみに、モロー彗星との衝突は、来る四月の初である」
講演者の声はふるえていた。
ロンドンとベルリンとからの驚くべきニュース放送は、まだつづいた。
「われわれは、近くこの対策について、国際会議を開くつもりで、もうすでにその仕事を始めた。八十億年のかがやかしい歴史の上に立つわれわれ地球人類は、今こそあらんかぎりの智力をかたむけて、やがて来らんとする大悲劇に備えなければならない!」
マイクの前の講演者は、ここで、一きわ声をはりあげた。
「われわれは、決して、悲しんでばかりいてはならないのだ。この非常時において、何かのすばらしい考えが飛出さないものでもない。そうして、大悲劇をいくぶんゆるめ、たとい地球が崩壊しても、幾人かの幸運者は、後の世界に生残るかもしれない。われわれのゆく手は、全く暗黒ではないと思うから、この放送を聞かれた方々は、大いに智慧をしぼり、いい考えが出たら、私のところへお知らせねがいたい。お知らせ下さった避難案は、われわれの会議にかけ、よく研究してみるであろう」
と、ひろく一般から、来るべき災難をさける方法をつのり、おしまいに、
「わが愛する地球の全人類よ。どうか、最後まで元気であれ。そうして、人類の恥になるようなことはしないように」
と、言葉を結んだのであった。
驚くべきニュースであった。
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