だね。何かあれに似たものがいたが、はて何であったろうか」
 と、新田先生は、しばらく考えていたが、
「ああ、そうそう。これは熱帯地方にあるものだが、たこの木という植物がある。これは、今見えているあの怪しい動物のように、小さいものではなく、大きな木だけれど、そのたこの木のかっこうが、どこやらあの動物に似ている」
「先生、今下に見えているのは動物ですねえ。そのたこの木は、植物なんでしょう。たこの木と言っても、動けないのでしょう」
「もちろん、そうだ。地面に生えている大きな木だから、動けるはずはない。千二君、先生は、形のことだけを考えて、たこの木に似ていると言ったんだよ」
 いくら考えても、この不思議な動物の正体は、わかりそうもなかった。
「ああ、先生」
 と、その時千二が叫んだ。
「何だい、千二君」
「先生、一ぴきだけかと思ったら、まだ奥の方に、もう一ぴきいますよ」
「なに、二ひきだって。どれどれ」
 檻の奥の、うす暗いところを見ると、なるほど、もう一匹の怪しげな動物が、眠っているのか、丸くなっている。
 地底にうごめく二匹の怪しい動物!
 新田先生と千二とは何だか、夢を見ているような気がしてならぬ。
「ねえ、千二君。あの動物のそばへよって、もっとよく見たいものだね」
「ええ」
「どこか、そのへんに、下りるところがあるのではないか。さがしてみようよ」
「ええ」
「ああ、千二君、こわければ、先生について来なくてもいいよ」
「いえいえ、僕、一しょに行きます。しかしねえ、先生。あの怪しい動物は一体何でしょうか。先生は、すこしも、見当がついていないのですか」
 千二は、熱心にたずねた。
「まだ、わからない。全く、わからない」
「そうですか」
 と、千二は、ちょっと考えていたが、
「実はねえ、先生。僕はさっき先生が、穴の中にへんな動物がいる、と言われたので、のぞきましたね。その時、僕は、それは火星の動物じゃないかしらと思ったのです。つまり、いつか、火星のボートに残っていた、怪しい奴のことを思い出して、また、あれと同じかっこうをした奴ではないかと思ったんです」
「うむ、うむ。それは、なかなかいいところへ気がついた。それで……」
「それで、穴の中をのぞいて、よく見たのですが、違っていました」
「違っていた?」
「そうです、たしかに、違っていました。火星のボートに乗っていた奴は、僕と組
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