ぽうっとうす桃色に光っているが、先生が、その怪しいうごめく物の形を、はっきり見きわめるには、かなり手間がとれた。
(ああ、不思議な動物だ! 見たこともない怪しい動物だ! 一体、あれは何であろうか!)
「見たか、千二君」
 と、新田先生は、千二を後から抱きながら、おどろきを伝えた。
 千二は、無言で、うなずくばかりであった。
 うすぼんやりした光を放っているその怪物は、何だか大蛸《おおだこ》のようなところがあった。頭がすこぶる大きくて、目玉がとび出しているところは、蛸そっくりであった。
 だが、蛸とは似ていないところもあった。それは、その大きな頭の上から、二、三本の角みたいなものが出て、それがしきりに動いていることだった。いや、角というよりも、蝶や甲虫などの昆虫類が頭部に持っている触角に似ていて、しきりにそれが動くのであった。
「不思議な動物じゃないか」
 新田先生は、たいへん感心して、はじめに感じた恐しさを、どこかへ忘れてしまったようであった。
 千二は、やはりうなずくばかりであった。
 その怪物は、はじめ床の上に、ぐにゃりとなっていたが、しばらくすると、むくむくと立上った。そうして、ぶらぶらと室内を歩き出したものである。
 その時、また奇怪なことを発見した。その動物には、人間や獣にあるような胴というものが見当らなかった。いや、胴はあるにはあるがたいへん細く、そうして短く、枕ぐらいの大きさもなかった。
 足はあった。その足を使って怪物は立上り、床の上をゆらゆらと動いているのだった。
 その足のまわりに、長い手のようなものがぶらぶらしているのが見えたが、その長い手はむしろ、蛸の八本の足に似ていて、ぐにゃぐにゃしていた。しかし、ずいぶん細い手であった。
 細いのは手だけではない。足もまたひょろ長いが、乾大根のように細い。
「どうも、不思議な動物だ」
 と、新田先生は、低くささやいた。
「熱帯地方にいるくも猿は、手や足がたいへん長い。胴は、ほんのぽっちりしかないように見える。だから、くも猿かしらんと思ったが、そうでもなさそうだ」
「先生、やはり大蛸ではないのですか」
 千二は、やっと、自分の考えを言ってみた。蛸とはちがったところがあるが、しかし、蛸に一ばんよく似ているのであった。
「そうだね。蛸と思えないこともないが、蛸にしては、檻の中で、あんなに活発に生きているのが変
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