しては、何だかへんだね。だって、早くなったり遅くなったりするようだよ」
「そうですか。機械の音でないとすると、何でしょうか」
「どうも、わからない」
 と、先生は吐きだすように言った。
「もし、地底に、誰かがかくれているのだったら、われわれは今、たいへんあぶないことをやりはじめたことになるのかも知れない。と言って、せっかくここまで来たのだから、このまま引きかえすのも残念だ」
 新田先生は、どうしようかと困っているらしい。
「先生、やっぱり、下へおりてみようではありませんか」
 と、千二は、勇敢に言った。
「下へおりると言うのだね。よし、そんなら、行ってみよう。さらに一そう用心をしておりて行くのだよ」
 それから二人は、さらに足音を忍ばせて階段をおりて行った。
 すると、階段が尽《つ》き、二人はしめっぽい土のうえにおりた。
 懐中電灯の光でさぐってみると、あたりは、なかなか広い。それだけに、気味の悪さは、一そう加わった。
「おお、あの見当だ。おや、ぽうっとあかりが見えるぞ」
 暗い廊下の奥に、穴でもあるらしく、下からぽうっと、光が天井の方へ映っている。
「何の光であろうか?」
 新田先生と千二とは、やっと並んで歩けるほどの、狭いその廊下をしのび足で、奥へ前進して行った。
「這って行こう」
 先生の注意で、千二も、しめっぽい土の廊下に腹ばった。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 ひゅん、ひゅん、ひゅん。
 奇妙な笛みたいな音は、だんだん大きくなって来た。
 千二は、その音を聞いているうちに、いつか、どこかで、そのような音を聞いたことがあるような気がして来た。
(はてな! 一度聞いたことがあるようなあの音? どこだったかなあ)
 新田先生は、ぐんぐん前進して、ついに腹ばいのまま、穴のふちのところまですすみ寄った。さすがに、これから先は、先生もよほどの覚悟をもってのぞまなければならない。先生は、その覚悟をつけるためか、二、三度大きい息をした後、思い切って、穴の方へそっと頭をさしのべた。今こそ、穴の中の光景が、見えるところへ来たのである。
 さあ、先生は、穴の中に一体何を見たであろうか。
(ああ――)
 先生は、石像のように、固くなった。大きなおどろきが、先生をそうしてしまったのである。
 見よ! 穴の中には檻が見えた。
 その檻の中には、何やら暗いなかにうごめくものがあった。

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