見たが、光がよわくて、よく見定めることが出来なかったが、とにかく階段は、かなりはるか下までつづいているようだった。
 先生は、先になって、その階段を踏み、しずかに下りはじめた。古びた木製の階段は、ぎちぎちと音を立てた。
 この階段は、大きな煙突の中に仕掛けてあるようなかっこうをしていて、まわりは、厚い壁でとりかこまれていた。だから、ちょっと靴の先が階段の板にぶつかると、とても大きな反響がした。


   22[#「22」は縦中横] 怪動物


 真暗な階段を、新田先生と千二少年とは、足音をしのばせつつ下りていく。
 その階段は、なかなか長くつづいていた。まるで、ふかい井戸の中にはいっていくような気がした。千二少年は、あまりいい気持ではなかった。
 先に立って、懐中電灯を光らせていた新田先生が、この時、ふと足をとめた。
(おや先生が、立止った!)
 と、千二は、すぐ、それに気がついた。
 その時、先生の手が、千二の肩を、静かにおさえた。
(動いてはいけない。静かに!)
 と、先生の手は、言っているようだった。
 千二は、もちろん、動かなかった。そうして、これは何事かがあるのだと思ったので、耳をすまして、先生の合図をまった。
「おい、千二君。君には、聞えないかね」
 新田先生が、千二の耳もとに口をつけて言った。この井戸の中のような階段にはいって後、始めてのことばである。
「えっ、聞えないか――とは、一体何が?」
 千二は、自分の耳に、全身の注意を集めた。
「ああ、――」
 千二は、その時、思わず、低く叫んだのであった。
 何か、聞えるようだ。
 気のせいかと思うが、そうではない。何だか、口笛を吹いているような音が、地底《ちてい》から、聞えて来るのだった。
「先生、僕にも聞えます。口笛を吹いているような音でしょう」
「そうだ」
 先生のあつい息が、千二の耳たぶにかかった。
「おい千二君。あの音は、一体、何の音だろうね」
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 地底から、かすかに響いて来るその気味の悪い怪音は、一体、何であったろうか。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 誰かが、地底で、口笛を吹いているように聞える。
 だが、まさか、こんな地底に、人間がいるとは思われない。
 では、機械の音ででもあろうか。
 新田先生と千二とは、よりそって、なおもその怪音に聞入った。
「千二君、機械の音に
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