ぼうん、ほら五時だ。五時をうったのだ」
「えっ、五時?」
「そうだ。第二の時計は、五時から鳴りだしたのだ。次は六時、七時……とうっていった。そういうわけだから、四時をうつ音は、聞えなかったんだ」
「ええっ、何ですって」
「つまり、千二君、実際は、二つの時計が鳴ったのだ。それを、君が一つの時計が鳴ったように思ったから、四時がぬけたと思ったんだ」
「ははあ、なるほど」
 ああ、ついに、柱時計の秘密はとけた。
 千二少年は、新田先生のあたまの働きに、すっかり感心してしまった。
(四時をうたないわけは、一つの柱時計が三時をうって終り、次にもう一つの時計が、五時からうちはじめるからだ)
 なるほど、二つの柱時計を、そういう風に鳴らせば、四時のところでは、鳴らないわけだ。先生は、実にすばらしい謎をといたものだ。
 その新田先生は、謎をといたあと、別に嬉しそうな顔もせず、二つの柱時計を、じっと見あげている。
「ああ先生、どうしたんですか。何を考えているんですか」
 と、千二は、先生の様子が心配になって側へよった。
「うん、千二君。先生は今、この柱時計について、もっと重大なことを思いついたんだよ」
「えっ、もっと重大なことって?」
 千二は、先生の顔と、相変らず振子のとまったままの二つの柱時計とを見くらべた。そういわれると、何だかまだ大きな秘密が、そのあたりにもやもやしているような気がする。
「そうだ。先生の考えているとおり、大胆にやってみることにしよう」
 新田先生の眉《まゆ》が、ぴくんと動いた。先生は、何かしら、一大決心を固めたものらしい。
「先生、先生。何を先生はやってみるというんですか」
「おお千二君」
 と、新田先生は、千二の方をふり向いて、急に顔をやわらげながら、
「さっきから、先生は考えていたんだが、今とうとう先生は、たいへんな大秘密をつきとめたような気がするんだ。それこそは、この蟻田博士邸内にある最大の秘密かも知れない。どうやら、これで、この屋敷にがんばっていたかいがあったようだ」


   21[#「21」は縦中横] 寄《よ》りそう師弟《してい》


 何が、そんなに、新田先生を興奮させているのか。
「先生、大丈夫ですか」
「何が、大丈夫だって。いや、心配しないでもいいよ。そして、これから、先生のやることを見ておいで」
 新田先生は、はりきった顔に、つとめて笑いを
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