のまん中に、その柱が、にょっきり生えていなければならないはずですね。先生、そんなものが、ありましたか」
「いや、あの部屋には、決してそんな柱は見えなかったよ。不思議だなあ」
 新田先生は、腕ぐみして、不思議だなあと、くりかえした。
「いや、とにかく、その柱の中は、調べてみる必要がある。が、どこからはいればいいのかわからない。あの部屋には、別に、その入口らしいものも見えなかったがねえ」
「変ですね」
「なあ、千二君。君は、あの部屋の床下にもぐりこんでから後、もっと何か見なかったかね」
「もっと、何か見なかったかと言うんですか」
 と、千二少年は、またしきりに、前のことを思い出そうとつとめていたが、
「ああ、そうだ。僕は、時計が鳴るのを聞きましたよ、先生」
「え、時計って」
「いや、僕のかくれていた頭の上で、ぼうん、ぼうんと時計が鳴ったんです」
「ああ、そうか。千二君は、床下で、それを聞いたんだね。すると、博士のあの秘密室の柱時計が鳴ったんだな。でも、それは不思議だ」
 新田先生は、首をかしげて、妙な顔をした。
「先生、止っていた時計を直しているから、時計が鳴ったのだと思いますよ」
「ああ、そうか。時計の針を動かしていたんだね」
「きっと、そうなんでしょう。だから、ぼうんぼうんと、幾つも打ちましたよ」
「なるほど、なるほど」
「ところが、先生、それがどうも、へんなんですよ」
「へん? へんとは、何がへんなのかね」
 新田先生は、千二少年の話に、たいへんひかれた。
「その時計の鳴り方ですよ。はじめ、ぼうんと一つうち、次にぼうんぼうんと二つうち、それからぼうんぼうんぼうんと三つうち……」
「つまり、一時、二時、三時だな。すると一時間おきに鳴る柱時計は、めずらしい」
「先生、僕がへんだと言ったのは、そのことじゃありません」
 と、千二は、先生の言葉をさえぎった。
「えっ」
「僕がへんだと思ったのは、ぼうんぼうんぼうんと三つ打ったのち、こんどは四つ打つかと思ったのに、ぼうんぼうんぼうんぼうんぼうんと五つ打ったのです。それから次は六つ、次は七つと、それからのちはあたり前に打っていったのです」
 千二が床下で聞いた柱時計の不思議について、新田先生は、首をかしげて考えこんだ。
「ふうむ、柱時計が一時・二時・三時とうって四時がぬけ、それから、五時・六時・七時とうっていったと言うんだね」
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