博士が間もなく帰って来るだろうということに気がついた。そうして、同時に、まだ謎のとけない博士の秘密室のことも思いだしたのである。
 そこで、新田先生は、話をしてみても、しようがないと思ったけれど、千二少年に向かい、
「なあ、千二君。先生は、君を助けようと思って、ここへ来たのではなかったのだ。実は、君のかくれていたところは、蟻田博士の秘密室の床下だったんだよ」
「えっ、博士の秘密室?」
「そうだ。蟻田博士が、たいへん大切にしている部屋なんだ。ところが、その部屋へはいってみたところ、部屋はがらん洞で、何も置いてないんだ」
「空部屋《あきべや》なんですね」
「うん、空部屋なんだよ。ただ、柱時計が二つ、壁にかかっているだけだが、この時計も、べつに変った時計でもなく、昔からよくあるやつだ。しかも、その時計は、ほこりを一ぱいかぶったまま、針はとまっているんだ。先生は、博士がなぜ、あのようなとまった古時計しかない空部屋を、大切にしているのか、わけがわからないので、困っているのだよ」
「そうですか。全く、わけがわかりませんねえ」
 と、千二も、先生も同じように首をかしげた。
「どうだ、千二君、君は床下にいて、何か秘密のあるようなものを、見なかったかね」
「床下で秘密のあるようなものというと……」
 と、千二はしきりに考えていたが、
「ああ、あれじゃないかしら」
「何だ。あれとは――」
 新田先生は、思わず声を大きくして、千二にたずねた。蟻田博士の秘密室の床下で、千二は、何を見たのであろうか。
「それは、博士の秘密だか何だか、わかりませんけれど……」
 と、千二少年は前おきをして、
「僕は床下で、たいへん太い柱を見たんです」
「なに、太い柱?」
「そうです。とても太い柱です。コンクリートの柱なんですよ。太さは、そうですね、僕たちが、学校でよく相撲をとりましたね。あの時校庭に土俵がつくってあったことを、先生はよく覚えていらっしゃるでしょう。柱の太さは、あの土俵ぐらいの太さはありましたよ」
「そうか、小学校の庭の土俵ぐらいの太さといえば、相当太い柱だね。それは柱というよりも、中に何かはいっているのじゃないかなあ」
「そうかも知れません」
「柱の上は、床についているのかね」
「さあ、それはよく、たしかめてみませんでしたけれど、もし床の上に出ているものなら、先生がおはいりになった博士の秘密室
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