。すると、いよいよ君は、もぐりの警官だということになる。おれは、本庁随一の腕利刑事で、佐々というけちな男だ」
「えっ」
「おれが腕利だということは、もう四、五分のうちに、君にもわかるだろう」
「なにっ」
相手の警官は、思わず一、二歩、うしろへ下った。
「――ということは、おれは偽警官の貴様をふんじばって、留置場へのおみやげをこしらえようとしているんだ。こら、神妙にせい」
佐々刑事は、いきなり相手におどりかかった。
相手の警官は、逃げるひまがなかった。佐々は、彼を、その場に押したおそうとしたが、
「おや、貴様は、何を着ているのか。うむ、鎧《よろい》を着ているんだな。いよいよあやしい奴だ。神妙にしろ!」
と、ねじふせようとした。
ところが、相手は、佐々に抱きつかれたような恰好だが、びくともしなかった。
「それを知られたからには、貴様の命はもらった。かくごしろ」
ううんと、相手は、うなった。そうして、あべこべに、佐々の胴中へ手をまわし、ぎゅうとしめつけた。
「なまいきなまねをしやがる。貴様は、佐々刑事の強いのを知らないと見えるな」
相手の警官は、なかなか強かった。
のどに繃帯をまいて、かぜをひいているとか言っていたので、さぞ弱い相手だろうと思っていたが、なかなかどうして、強かった。佐々刑事は、たじたじであった。
二人は、組みついたり、離れたり、うちあったりしたが、なかなか勝負がつかない。
こんな場合、佐々刑事は、もっと早く助けをよぶべきであったと思う。ところが佐々は、自分一人の手柄にしようと思って、大いにがんばったのであった。
ところが、どうも佐々の方が旗色が悪い。助けの声を出そうにも、声を出す隙さえないという有様だった。
「あっ……。うむ」
「ぶうーん」
「やっ。えいっ」
「ぶうーん」
苦しいかけ声をかけているのが佐々刑事で、相手の警官は、ぶうーんと、妙なうなりごえをあげる。どこまでも、かわった人物だった。
(こいつは手ごわい相手だ。ぐずぐずしていると、あいつの鉄拳で、こっちの肋骨を折られてしまうかもしれない。何とかして、早いところ、相手をたおしてしまわねばならぬ!)
佐々刑事は、だんだん無我夢中になって来た。どこか、相手の隙はないか。
そう思っている時、彼は、一つの隙を見つけた。
「これでもかっ!」
佐々刑事は、飛びこみざま、相手の顎を下
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