りして、
「な、何をする!」
 と叫んで、横にとびのいた。
「やあ、失敬失敬。いや、その繃帯はどうしたのかと思ってね。どこで怪我をしたのかね」
「かぜをひいたのだ。それで繃帯をまいているんだ」
 相手はつっけんどんに言った。
「そうかね。かぜをひいているのか。でも、あごまで繃帯で包んでしまうなんて、君はずいぶん変っているね」
「ふん、おれのすることに、君が口出しすることはないよ」
 と、相手はおこったような、ものの言いかたをした。
「君が探している子供というのは、一体どうした子供なんだね」
 佐々刑事は、かわり者の警官に、それをたずねた。
「ああ、その子供というのはね、背が、これくらいの少年なんだ」
 と、顎に繃帯したその警官は、自分の胸あたりに、手をあげた。
「名前は?」
「名前は――名前は、千二というんだ」
 と、警官は言った。
「千二というのか。はて、聞いたような名前だが……」
 佐々刑事は、小首をかしげた。
 千二? そうだ、千二といえば、あの天狗岩事件や銀座事件で、つかまったあの少年が、千二という名前だった。
「千二というのは、けさ警視庁から放免された千葉県生まれの少年のことじゃないのかね」
「ああ、そうかもしれない。とにかく、その千二という子供に会いたいという者があって、それからの頼みで探しているんだ」
「へえ、そうかね。で、それを頼んだ者というのは、誰かね。もしや、丸木とかいう、怪しい男じゃなかったかね」
「丸木?」
 と、顎に繃帯を巻いた警官は、何にびっくりしたのか、ちょっと口ごもったが、
「ああ、あの丸木なら、もう死んでしまったじゃないか。ほら、あそこで皆が、火をたいて集っているが、丸木は、自動車に乗ったまま、この向こうの崖から墜落して、死んでしまったということだよ。丸木は、もうどこにもいない」
「ほう、君は、丸木のことをよく知っているね。それから、千二少年のこともよく知っているらしい。一体、君は、どこの警察署の人かね」
「わしのことかね。わしは、そのう、つまり日比谷《ひびや》署の者だ」
「うそをつけ!」
 佐々刑事は、何と思ったのか、顎に繃帯をまいている警官に、うそをつけと、はげしいことばを吐いた。
「何が、うそだ。警官に対して、何をいうのか。お前こそ、どこの何者だ」
 相手は、きびしく、佐々に向かって、逆襲して来た。
「君は、おれを知らないのか
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