いた。
「あっ」
新田先生は、思いがけない驚きにあって、しばらくは口がきけなかった。
「先生、僕、千二ですよ。ああ新田先生だ。よかった、よかった」
新田先生は、空気穴の方へ手をさしのばして、
「ああ、千二君だ。ほんとうに千二君だよ。どうして、こんなところへ……」
と、言ってから気がつき、
「さあ、早く、こっちへ出て来たまえ!」
空気穴から千二少年がはい出して来た。
「おお、千二君。よくまあ……」
「先生!」
二人は、思わず抱きあって、涙にむせんだ。
「先生は、どうしてこんなところに、いらっしゃるんです」
「ああ、これには、わけがある。要するに、君を助けたいためと、もう一つは、もっと大きなものを助けたいためだ」
「もっと大きいものって何ですか」
「それはね――」
と言いかけたが、先生は、あわてたようにあたりを見まわし、
「それは、話が長くなるから、いずれあとで、ゆっくりして上げるよ」
と言って、それから改まった口調になって、
「私のことはともかくとして、千二君、君は一体どうしてこんなところへ? 警視庁を脱走したのじゃあるまいな」
「ああ、そのことですか。先生、心配しないでください。僕は、おひる前、もう帰ってよろしいというので、久しぶりで自由の身になれたんです」
「それはよかった。が、ほんとかね。じゃあ、なぜこんな床下にもぐりこんでいたんだい。許されて出たものなら、堂々と町を歩いていてもいいはずではないか。どうも、おかしいじゃないか」
新田先生は、千二が、こんな床下にもぐりこんでいたのは、やはり心の中に、うすぐらいところがあるのではないかと、心配しているのだった。
「僕、うそなんかつきませんよ。じつは、僕、日比谷公園のそばで、丸木のため、むりやりに自動車に乗せられて、こっちへ連れて来られたんです」
「なに、丸木が?」
と、新田先生は、驚いて言った。
そこで千二は、日比谷公園のそばで、怪人丸木のため、むりやりに自動車にのせられたことや、丸木の自動車が交通違反をしたため、オートバイの警官に追いかけられ、とうとうこんな方角へ来てしまったことなどを話した。
「……すると、先生。僕は、おどろいてしまったんです。とつぜん自動車の行手に、『危険! この先に崖がある』という注意の札が見えたんです」
「ほう、ほう」
「危険の札が、立っているのに、丸木はそのまま、そこを
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