の外まわりをまわった。
(どこかに、入りこめる穴があったように思っていたが……)
先生は、その建物の床下に、空気を通じるための穴があって、そこに鉄の格子がはまっていたことを思い出したのであった。それで先生は手さぐりで建物の外をさぐってまわった。気はいらいらするが、もしも相手が生き物だったら、たいへんだと、一生けんめいに、はやる心をおさえた。
だが、一体何だろう、あの音は?
(あっ、穴だ!)
先生の手が、穴にふれた。四角い窓のようにあいていた。
(おや、鉄格子が、はまっていたはずだが、外してしまってあるじゃないか」
鉄格子は、なくなっていた。誰が外して持っていったのであろうか。
窓のところから、すうと風が出て来るのが、はっきり感じられた。
ごとん。
またあの怪しい音がした。どうも人間がいるらしい。
先生は考えた。どうしてやろうか、と。だが、ぐずぐずしていられないことはたしかであるから、思い切って、先生は床下に向かって声をかけた。
「誰だ、そこにいるのは?」
ごとん――と、また音がしたけれど、へんじがない。
「そんなところにはいりこんでいては、困るじゃないか。用があるなら、こっちへ出て来たまえ」
先生は、床下にひそんでいるのは、刑事かも知れないと思ったので、なるべく鄭重に言った。
新田先生は、マッチを出して火をつけた。
「とにかく、こっちへ出て来たまえ」
と、空気穴から声をかけた。
すると、床下では、ごとんごとんとつづけざまに音がしたが、やがて何者かが、こっちへごそごそはい出して来る様子。
「いよいよ、おいでなすったな」
と、新田先生は、体を建物の土台の方へよせて身を守りながら、また新しいマッチに火をつけた。
(もし、変な奴だったら、この空気穴から頭を出したとたんに、力一ぱい首をしめてやろう!)
そう思って身がまえたとたん、近づいた床下の怪物は、
「先生、新田先生ではありませんか」
と、意外な言葉を発したのであった。
驚いたのは新田先生だ。下手をすれば、どうんとピストルのたまぐらい、こっちへ飛んで来るだろうと思っていたのに、意外も意外、その怪物は自分の名を呼んだのであった。
「だ、誰だ!」
新田先生は、どなり返した。
「先生、やっぱり、新田先生だ。僕です、僕です」
僕です、という声とともに、空気穴からかわいい少年の顔が、こっちをのぞ
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