ものすがかかっているのを見て、そう言った。
 するといよいよわからない。博士は、たびたびこの部屋に出入しているのだ。きょうもたしか、この部屋にはいったことがあった。
 博士は、この時計が示している時刻を見るために、この部屋へ出入するのではあるまいかと思ったが、時計は振子がずっととまっているのであるから、見ても何にもならないはずであった。すると、ますますわからなくなる。この部屋の秘密は、一体どこにあるのであろうか。新田先生は、途方にくれてしまった。
「どうも、わからない!」
 新田先生は、蟻田博士の秘密にしている空室のまんなかにしゃがんだまま、とけないこの部屋の謎を、じっと考えこんだ。
 だが、先生は気が気ではない。警視庁へ出かけた博士が、いつ、ここへかえって来るか、知れないのだ。
 見つかれば、たいへんなことになる。博士にことわりなしに鍵を持出し、この秘密室にはいっているのだから、見つかれば、博士はどんなに怒り出すか知れない。その結果、せっかく新田先生が、博士の力を利用して、モロー彗星衝突によるわが地球人類の全滅を、何とかして食いとめたいと努力をしていることが、一切だめになる。
 先生は、腕ぐみをしてしゃがんだまま、しきりに頭をふったが、この部屋の謎は、一向にとけなかった。
 先生が、考えこんでから五、六分のちのことであったが、ふと先生は、あやしい物音を耳にした。
「おや、何の音だろうか、あれは……」
 先生は、けげんな顔で、聞耳をたてた。
 ごとん。――しばらくして、また、ごとん。
「ああ聞えた。あれは一体何の音だろうか。うむ、床下から聞えて来るようだ」
 先生は、足音をしのばせて、立ちあがった。どこかに、床下へはいる場所がありはしないかと、部屋の中を見まわしたが、何しろ、とっさのことでもあり、そんなものは見あたらなかった。
(どうしたら、床下が見えるだろうか?)
 先生は、考えた。
 ごとん。ごとん。
 又しても、怪音は床下から聞えて来る。
(そうだ。庭へ出て、外から床下をのぞいてみよう)
 先生は、そう決心すると、さらに足音をしのばせて、そっと部屋をたち出でた。


   18[#「18」は縦中横] 命びろい


 床下の怪音!
 新田先生は、その怪しい音こそ、蟻田博士の秘密室の謎をとくものであろうと思った。
 先生は、くらがりの庭を、足音をしのばせて、秘密室
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