を聞くと、急に熱心になった。
「千二少年は、いま警視庁に留置されているのです。博士から、大江山捜査課長に、お話しになれば、会えないことはありますまい」
「そうか。では、わしは、これから大江山に会って来よう」
「たいへんお急ぎですね」
「うむ。いや、なに、ちょうど読書にあきたところだからのう」
 博士は、なぜか、ぽっと顔をあからめて、そう言うと、帽子もかぶらず、そのまま玄関から出て行った。
 新田先生は、博士について行って、また千二少年に会ってみたい気がしたが、しかし少し別に考えることがあったので、
「じゃあ、行ってらっしゃいまし」
 と、玄関で博士を送り出したまま、自分は急いで研究室の方へ引返した。
 新田先生は、室内にはいると、すぐさま、博士がさっきまで書見をしていた大きな机へ突進した。そうしてその大引出を、開いてみたのであった。
「確かに、博士は、あれを置いて行ったと思うのだが……」
 と、新田先生は、しきりに、何かを探し始めた。


   17[#「17」は縦中横] 意外な室内


 蟻田博士邸にはいりこんだ新田先生が、博士のすることについて、いろいろと気をつけていると、わりあい明けっぱなしの博士が、ただ一つたいへん用心をしていることがあった。それは、この天文台と棟つづきの奥まった一つの部屋に出入するのに、かならず鍵を用いていたことである。
 しかも博士は、その部屋へいく時は、きっと、横目でじろりと新田先生の様子をうかがい、それから先生に気づかれないように、そっと大引出をあけ、中から鍵を取出し、てのひらに握ってから、席をはなれるのであった。
 だが、鍵は時々がちゃりと音をたてることがあった。そういう時博士は、はっと息をとめ、ゆだんなく新田先生の顔を、しばらくじっと見つめていた。新田先生がそれに気がついた時は、博士は席を立つのをあきらめる。もし新田先生が気がつかないでいると見ると、はじめて席をはなれるのであった。そうして奥まった部屋へ出かけていくのであった。そういう時、研究室の廊下へ通じる扉には、かならず外からかけがねがかけられていて、先生がハンドルをまわしても、向こうへは、あかなかった。
 でも、新田先生は、博士が、その大切な鍵をつかって奥の部屋をあけているのを、ちゃんと見て知っていた。それは、扉の下の方に、一つの節穴があって、そこからのぞくと、廊下の奥で、博
前へ 次へ
全318ページ中79ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング