は始めて望遠鏡から目を離すと、新田先生の顔を、穴のあくほど、じっと見すえたのであった。
 博士の目は、ゴムまりのように大きく開いて、新田先生を見すえた。
「おい新田、お前はどこでそんなことを聞きこんだのか。それともお前は、おかしくなったのではないか」
 博士は、新田先生をつまらん弟子だと思い、いい加減にあしらって来たのであるが、とつぜん博士の心にちくりと痛い質問を投げかけたばかりか、その果に、宇宙艦が火星国でつくられたことを、新田先生に言いあてられて、びっくりした。
 それもそのはずであった。宇宙の秘密、殊に火星の事情などは、蟻田博士以外に誰も知る者がないと思っていたのに、とつぜん新田先生にあばかれてしまって、博士のおどろきは、一方《ひとかた》でなかった。
 博士は、元来世間の事情にうとい人であったから、天狗岩事件が新聞に出たことなどには、気がついていないらしかった。
 新田先生は、そこで改めて、千二少年の話、火星のボートが天狗岩へ来たこと、それから怪人丸木が殺人事件を起してまで、ボロンの壜をうばって逃げたことなどを、すっかり博士に話をしたのであった。
 博士は、たいへん真剣な顔になって、一々、ふむふむとうなずきながら、新田先生の話に耳をかたむけた。
 話しおわって、新田先生は、ここぞと思って博士に重大な質問を放った。
「博士は、丸木という怪人物について、なにか、お心あたりはありませんか」
「ああ、丸木――とかいったね、その怪人物は。さあ、わしは、なんにも知らないよ」
 博士はそっけなく答えたが、新田先生の睨《にら》んだところでは、博士は、その怪人物丸木のことについて、たいへん心をひかれている様子であった。
「丸木、丸木か? おい、新田。その丸木なる者は、どのくらいの大きさだったかね」
「大きさ? ああ、背丈のことですか」
「そうだ、丸木の背丈のことだ」
 と博士は、新田先生に言われて、質問を言直した。
「丸木の背丈――と言って、別に変ったことはないようです。中背というところじゃ、ありませんかね」
「ありませんかねとは、はっきりしない言葉だね」
「だって博士、私は、丸木を見たことがないのです。千二少年から聞いた話なんですからね」
「おお、そうか。なるほど、なるほど。そうして、その千二という少年は、今どこにいるのか。すぐ、ここへ呼んでもらえまいか」
 博士は、丸木の話
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