があったため、ありもしないそんな変なものを見たように、報告したのであろうということだった。わしも、正直に言えば、その友人が、変になっていたのだと思っていた。が、これはどうだ。その友人の報告書に書いてあったとおりの形をした宇宙艦が、今レンズの向こうに見えているではないか。しかも、さかんにうごいている!」
博士は、すっかりその宇宙艦に、気をうばわれている様子であった。
「博士、その宇宙艦というのは、どこの国で作ったものですか」
「作った国は、どこだというのかね。さあ、わしはまだよく研究していないが、さっき話したわしの友人は、ドイツの空軍研究所が、試験的に作ったものであろうと書いてあった。もっとも、ドイツの当局では、そんなばかな話はないと、さかんにうち消していたがね」
「博士は、あの宇宙艦が、ドイツで出来ると思っておられますか」
「いや、そうは思わない」
蟻田博士は、望遠鏡の中にうごめく宇宙艦を、しきりに観察しながら、新田先生と話を続けている。
博士は、その宇宙艦が、いつだか博士の友人のドイツ人が報告書にのせ、人々の注意をうながした宇宙艦だと言った。新田先生は、その宇宙艦は、ドイツ人に作れるかと、重ねて尋ねたが、博士は、いや、ドイツ人には作れないであろうと答えたのだった。
そこで、新田先生は、急に頭の血管が、ちぢまったように感じた。先生はせきこんで博士に尋ねた。
「じゃあ博士、あの宇宙艦は、どこの国で作ったものだとお考えになるんですか」
「うむ。さあ、そのことだが……」
博士は、すぐには、返事をしなかった。そうして、なおもしきりに、望遠鏡のレンズを動かしつづけた。
「博士、それは一体、どうなんでしょうか」
「うむ、待ってくれ」
と、博士は、苦しそうにうめいた。
新田先生はいらだって、もうだまっていられない様子だった。彼は、博士の洋服をつかむと、
「博士、私は、あの宇宙艦が、どこで作られたか、知っているのです」
「なんじゃ、お前が知っているって。ほほう、そんなはずはない。なにをお前は、ばかばかしいことを言出すのじゃ。あははは」
「いや、博士、私は申します。あれは、火星国でつくられた宇宙艦なのです。そうして、あの宇宙艦は、これまでにたびたび、この地球にやって来たことがあるのです。いかがですか、博士」
「ややっ、どうしてお前は、そんなことを知っているのか」
博士
前へ
次へ
全318ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング