のではないかと思ったほどである。
しかし、これは決して食あたりのせいではなかった。いずれ後になってはっきりわかるが、千二が胸が悪くなったのも、もっともであり、そうしてそれは食あたりではなく、原因は外にあったのである。
千二は、ついにたまらなくなって、道のうえに膝をついた。
とたん、さあっと音がして、雨が降出した。この時冷たい雨が千二の頬にかからなければ、彼はその場に長くなって、倒れてしまったかも知れない。だが、幸運にも、この冷たい雨が、千二をはっと我にかえらせた。
「うん、これはしっかりしなければだめだ」
雨のおかげで地面が白く見え、彼のすぐ近くに、大きな鉄管《てっかん》が転がっているのが眼についた。彼は雨にぬれないようにと思って、元気を出してその中へはいこんだ。
その時であった。ずしんと、はげしい地響《じひび》きがしたのは!
ずしん!
たいへんな地響きだった。
千二のはいこんでいた大きな鉄管が、まるでゴム毬《まり》のように飛びあがったような気がしたくらいの、はげしい地響きだった。
はじめは、地震だとばかり思っていた。
が、つづいて何度もずしんずしんと地響きがつづくので、地震ではないことがわかった。
千二は、そのころ、もう立上る元気もなくて、鉄管の中で死んだようになって横たわっていた。
その時、彼は、何だか話声を聞いたように思った。どこでしゃべっているのか知らないが、さまで遠くではない。
話声のようでもあり、また数匹の獣《けもの》が低くうなりあっているようでもあった。
ひゅう、ひゅう、ひゅう。
ぷくぷく、ぷくぷく。
そんな風にも、千二の耳に聞えた。そんな風に聞えるのは、彼の気分が悪いせいだとばかり思っていた。
そのうちに、その話声は急に声高になった。
「何を言っているのだろうか。あれは誰だろうか」
この時千二の頭は、かなりぼんやりしていたが、あまりに気味のわるい叫び声であるから、鉄管の中でじっとしているわけにもいかず、鉄管から首をだして、声のする方を眺めたのであった。
その時の彼の驚きといったら、言葉にも文字にも綴《つづ》れない。
千二のいるところから、ものの二十メートルとは離れていないところに、大きな岩があった。それは湖の中へつきだしている、俗に天狗岩という岩にちがいない。その岩の上に、とても大きな爆弾のようなものが、斜に突
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