ここまで考えて、帆村はやっと重い荷を一つ下ろしたような気がした。早く大阪へついてこの鍵《キイ》を解いてしまいたくて、たまらない。


   救難信号


 帆村は列車のうちに一夜を明かした。その翌朝の六時三十八分というのに、列車は大阪駅に入った。
 すこし神経がつかれたのか、頭が痛い。それを我慢して、大阪の街に一歩を印《しる》した。
 天王寺に近い新世界は、大阪市きっての娯楽地帯であった。そこにはパリのエッフェル塔を形どった通天閣があり、その下には映画館、飲食店、旅館、ラジウム温泉などがぎっしり混んでいた。
 帆村はもう一所懸命であったから、顔も洗わず、飯も喰べないでこの新世界へ車をとばしたのであった。
 アシベ劇場は、通天閣のすぐ脇にあった。しかしあまり早朝なので、表戸はしまっていて内部を覗《うかが》うよしもない。通りかかった女性に聞くと、まだ三時間ほど待っていなければならぬそうであった。彼はやっと落ちついて顔を洗ったり朝飯をとる時間を見出した。劇場が切符をうりだしたのを見ると、帆村はまっさきに館内へ入った。そして待ちに待った第五番目のノートは、うまくとれた。それは別掲のようなも
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