あった。
 帆村はそれをきっかけに、ウェイトレスと心やすくなってしまった。
「なんだなんだ、これは綺麗な橋がついているじゃないか」
 と、帆村は壁のところにちかよった。
「ロンドン塔の写真よ。昔その中で、たくさんの人が殺されたんですって。その中には王子様も交っていたのよ」
「へえ、君は物しりだね、そんな恐ろしいところとは見えないほど綺麗だ。なるほど」
 そのとき内から声があって、ウェイトレスを呼んだ。どうやら料理が上ったようである。――帆村は苦もなく、ロンドン塔を裏へひっくりかえして、鏡の裏面に紫外線ペイントで書いてある秘密文字を拾うことができた。
 それをノートへうつしとったときに、ウェイトレスが湯気《ゆげ》のたつ卵焼きを盆にのせて搬《はこ》んできた。帆村はなにくわぬ顔をして、卓子《テーブル》のところへ戻ってきた。
 次から次へと搬ばれてくる大味な料理をどんどん片づけながら、帆村は壁に貼ってある時間表へしきりに目をやっていた。
「十時二十五分、神戸行急行というのに乗るよりほか仕方がない」
 彼は次の旅を考えていたのだ。目的地は大阪であった。段々と西へ流れて東京から遠くなってゆくことが
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