どうにもはっきりさせようがなかった。帆村はノートを閉じて、車窓の向うにぐんぐん流れゆく田園風景に目をやった。畑はどこも青々としていて、平和そのもののように見えるのを感心しているうちに睡くなって寝込んでしまった。
 どの位睡ったかしらぬ。列車ががたんと揺れたので眼を覚ました。ちょうど今列車は電灯があかあかとついた駅の構内にスピードをゆるめて入っていった。駅名を見ると、沼津だ。正に午後八時五十五分のことであった。
 彼は列車を捨てて駅の外に出た。
 腹はおそろしく空《す》いていた。考えがあって、車内で喰べることを控《ひか》えていたのだ。考えとは外でもない。宝探しみたいな例の暗号手引によって、駅前の菊屋食堂に入って調べなければならぬとすると、ここは我慢して空きっ腹にして置く方が便利であったのだ。
 菊屋食堂は、大きな看板が出ているので、すぐそれと分った。
「姉さん。すっかり腹を減らしてしまったよ。いそいで食事をこしらえてくれないか。ええと、献立はエビのフライに、お刺身《さしみ》に、卵焼きに、お椀にライスカレーに、それから……」
 ウェイトレスがくすくすと笑いだした。あんまり多量の注文だからで
前へ 次へ
全43ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング