常に智的な人物ばかりなんだ。だから若《も》しちょっとこっちが油断をしていれば、たちまち逆に利用されてしまう。全く油断も隙もならないとはこのことだ。そして相手はみんな生命がけなんだから、あぶないったらないよ。しかも相手の人数は多いし、組織はすばらしくりっぱで、あらゆる力を持っている。そういう相手に対し、われわれ少人数でぶつかって行くんだから、本当に骨が折れる」
「なんかその辺で、差支《さしつか》えない話でも出てきそうなものじゃないか」
 と僕がすかさず水を向けると、彼は新しい莨《たばこ》に火をつけながら、
「うん、一つだけ話をきかせようかな。これは八、九年前に僕自身が自演した失敗談だ。例の手剛《てごわ》い相手どもが如何に物を考えてやっているかという一つの材料になると思うよ。しかも僕としては、いまだかつて、これほど頭をひねった事件はなかったのだ。脳細胞がばらばらに分解しやしないかと思ったほど、いやもう頭をつかった。――しかも後でふりかえってみると、実に腹が立って腹が立ってたまらないくらい、僕ひとりで独楽《こま》のようにくるくる廻っていたという莫迦莫迦《ばかばか》しい精力浪費事件なのさ」
 
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