の太い眼鏡にかえ、どこから見てもじじむさくなった。そのことを僕が揶揄《からか》うと、彼は例の大きな口をぎゅっと曲げてにやりと笑い、
「ふふふふ、ちかごろはこれでなくちゃいけないんだ。街へ出ても田舎へ行っても、どこにでも行きあうようなオッサンに見えなくちゃ、御用がつとまらないんだよ。そういう連中の中に交って、こっちの身分をさとられずに眼を光らせていなくちゃならないんだからね。昔のように自分の趣味から割りだしたおしゃれの服装をしていたんじゃ、魚がみな逃げてしまう」
と、俗っぽい服装の弁を一くさりやった。
そこで僕は、彼がちかごろ取扱った探偵事件のなかで、特に面白いやつを話して聞かせろとねだったのであるが、帆村はあっさり僕の要求を一蹴《いっしゅう》した。
「諜報事件に面白いのがあるがね、しかし僕がどんな風にしてそれを曝《あば》いたかなんてことを公表しようものなら、これから捕えようとしている大切な魚がみな逃げてしまうよ」
と、彼は同じことをくりかえし云った。
そのような事件におどる魚は、そんなにはしっこいものであるのか。そういう問にたいして帆村荘六は、
「そういう事件に登場する相手は非
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