そしてあらゆる手段を使って、一時間でも早く完了していただきたい。遅れてしまうと、政府にとってたいへんな損害ですから――それから云うまでもありませんが、十分身辺を警戒して下さい」
 そういって木村事務官は、車馬賃として金一万円也の紙幣束を帆村に手渡したのであった。必要あらば、金はいくらでも出すからいってくれ、秘密連絡所として市内某所を記した名刺を手渡した。そこは普通の民家を装ってあるが、長距離電話もあれば、電信略号もあり、振替番号まで詳細に記載してあった。
 帆村荘六は、この木村事務官との会見によって、珍らしいほどの大昂奮《だいこうふん》を覚えた。なかなか手剛い相手である。こっちへ送られて来た来月の暗号の鍵を、いかなる危険をおかしてもこの五日のうちに探しあてるのだ。非常にむずかしい仕事であることはよく分っている。従来の暗号でこのような数学みたいなものを出したものがあるのを聞いたことがない。骨が折れることは目に見えている。
「よし。どんなことをしても、この六桁の暗号の鍵を解かずには置くものか」
 帆村は料亭を出ると、すぐさま公衆電話函に駈けこんで、大辻助手を電話口に呼びだした。こういう重大
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