いう風に7となる筈である。
とにかくこうして、Xは5か9かのどっちかという見当になった。
そこで更にすすんで、除数 74A のAが4の場合と9の場合とについて検討してみるのに、次のようになる。
744 で X=5 のときには、答は 3720 となる。これは□74□に合わないから、仮定が合わない。
次に同じく 744 で X=9 として答を求めてみると 6696 となり、これも□74□の形に合わないから駄目。
こんどはAを9として、749 に X=5 を仮定してかけてみると、答は 3745 であるから、これは□74□と一致する。
もう一つ、同じく 749 に X=9 を仮定してかけてみると、これも 6741 となって一致するのである。
すると 744 は落第で、749 が合うことになる。
されば A=9 と決定を見た。
Xの方は5か9か、まだどっちとも分らない。
Aが9ときまれば、HIJ2 は綺麗に計算ができて、5992 となる。HとIとは前から分っていたが、これをもって J=9 と定まる。
あとはNが3か6か、またPが5か1かということになるが、それだけのことだ。
ここまで考えて、帆村はやっと重い荷を一つ下ろしたような気がした。早く大阪へついてこの鍵《キイ》を解いてしまいたくて、たまらない。
救難信号
帆村は列車のうちに一夜を明かした。その翌朝の六時三十八分というのに、列車は大阪駅に入った。
すこし神経がつかれたのか、頭が痛い。それを我慢して、大阪の街に一歩を印《しる》した。
天王寺に近い新世界は、大阪市きっての娯楽地帯であった。そこにはパリのエッフェル塔を形どった通天閣があり、その下には映画館、飲食店、旅館、ラジウム温泉などがぎっしり混んでいた。
帆村はもう一所懸命であったから、顔も洗わず、飯も喰べないでこの新世界へ車をとばしたのであった。
アシベ劇場は、通天閣のすぐ脇にあった。しかしあまり早朝なので、表戸はしまっていて内部を覗《うかが》うよしもない。通りかかった女性に聞くと、まだ三時間ほど待っていなければならぬそうであった。彼はやっと落ちついて顔を洗ったり朝飯をとる時間を見出した。劇場が切符をうりだしたのを見ると、帆村はまっさきに館内へ入った。そして待ちに待った第五番目のノートは、うまくとれた。それは別掲のようなものであった。(第七図)
[#ここから罫囲み]
[第七図]
※[#丸5、1−13−5]
8□
_______
74□)□□□□□□
□□□2
―――――
□9□□
□74□
―――――
□□4□
※[#丸6、1−13−6]富山市公会堂事務所ニ置カレタル「オルゴール」時計ノ文字盤。商標ノトコロニ星印アリ
[#ここで罫囲み終わり]
□□4□と、第五段めの四桁数字が出てきた。これを QR4S と記号をふった。
この辺で大概決ってしまうであろうと思って調べてみた帆村は、大きい失望を経験しなければならなかった。なんの新しい決定もないのであった。F=M であったように、G=S であるが、さてそれが如何なる数字であるか分らぬ限り、なんにもならない。
「早く富山に行ってみなければ駄目だ」
と帆村はアシベ劇場の休憩室で、大きな欠伸《あくび》を一つした。
とうやら次の富山がゴールのようである。なにごともそこで決りがつくのだ。
帆村はふらふらする身体を立てなおしながら、日本空輸へ電話をかけた。
「もし、富山行きの旅客機に席が一つ明《あ》いていませんか。もちろん今日のことです」
すると返事があって、明いているという。そこで切符を頼んで、名前を登録した。出発時間はと聞けば、午前十一時十分だという。あと一時間半ばかりあった。
帆村は公衆電話函を出ると、急に酒がのみたくなった。
あまり時間はないが、こうふらふらでは仕方がない。ことにこれから空の旅路である。ぜひ一杯ひっかけてゆきたい。そう思った彼は、新世界をぐるぐるまわりながら、酒ののめるところを物色した。
あとで聞くと、それは軍艦横丁という路次だったそうであるが、そこに東京には珍らしい陽気なおでん屋が軒をならべていた。若い女が五、六人、真赤な着物を着て、おでんの入った鍋の向うに坐り、じゃんじゃかじゃんじゃかと三味線をひっぱたくのである。客も入っていないのに、彼女たちは大きな声で卑猥《ひわい》な歌をうたう。この暑いのにおでんでもあるまいとは思ったが、その屈托《くったく》のなさそうな三味線の音が帆村の心をうったらしく、彼はそこへ入って酒を所望した。
それから後のことは、帆村の名誉のために記したくない。とにかくその日の夜十時になって彼は転げこむように大
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